「黒猫」もうひとつの物語第二弾「少女たちの願い」

 中間テスト一週間前。放課後。
 私は中学からのお友達、立花めぐみちゃんと一ノ瀬凛ちゃんの三人で一年五組の教室へ向かった。
 うちのクラスの立花葵天くんと、大山リアムくんがいるバレー部のメンバーで勉強会をしていると、凛ちゃんから情報が入り(情報キャッチは私の専売特許なのに)、少しでも成績を上げるため……なんてのはうそ。私個人としては、立花葵くんともっと親しくなりたいから参加する。だって高校生になったんだもん。彼氏のひとりやふたりほしいじゃない。あれ? 二人もいたら二股で訴えられちゃう。それはダメ。えっと、彼氏のひとりくらいほしいじゃない。だから、勉強会に参加するの。
 立花くんがダメでも、他にかっこいい子いそうだし。女子の間でも人気沸騰中なんだよね、バレー部って。
 セッターの蒼野樹くんはまとめ役の好青年。
 一番背が低い山田健太くんは、まだ一度も話したことがないな。でも少し興味はある。だって顔が近くて話しやすいかも。
 見た目が男らしいのは結城大夢くん。話している感じも男らしいのよね。ちょっとタイプかも。
 顔が小さくて韓国系イケメンの空閑星矢くん。周りにお星様がキラキラしてそうでいいな。
 変な関西弁の彼は……誰だったかな? そうそう高梨柊斗くん。あまり興味ないや。
 一番背が高い大山リアムくんはうちのクラス。物静かで守ってくれそうな感じがする。
 そして一推しの立花葵くん。パーフェクト。かっこいいし、優しいし、頭がいい。なによりその髪色と瞳の色なんて、もうたまらない。
 私はおっとり系のか弱い女の子設定だから、しゃしゃり出ないように気をつけなくちゃ。
「この顔ぶれは初めてだっけ? 男子はバレー部で、五組のイツキ、ヒロ、シュウト、ケンタの四人。二組のセイヤ、一組はわかるでしょう? リアムだよ。女子は三人とも一組。で、めぐみの友達」
「アオのクラスメイトよ」
 凛ちゃんナイス。私の思惑通り……えっ?! 『アオ』って言った? 今『アオ』って言ったよね。なぜ?
「よし、リンから自己紹介。名前教えてあげて」
「一ノ瀬凛、成績上げてメグを超えるわ」
「十年早いのよ! 私はアオイを超えるわ。あっ、立花めぐみ。アオイのいとこです」
 二人ともその調子。そして私はおしとやかに……。
「高橋芽依です。少しでも立花くんに追いつきたくて……」
「どうして?」
 山田くん?! 気にしてくれた?
「メグミちゃんが、立花くんと肩を並べられるくらいにならないと、相手にされないって言うから」
「大丈夫だよ。もうメイのこと認識してるし、メグミの良きライバルでいてくれたらいいかなって……フフ」
 はい、来ました。私の王子様。
「出た、黒アオイや」
 何言ってるの。やっぱこの人、無理。
「シュウ! 後で個人的に話そうか」
「いえ、何でもありません」
 高梨柊斗。噂では蒼野くんの次に立花くんと距離が近いって聞いてる。そんなのヤダ。
 勉強をする席も、男子と女子で分かれている。
 立花くんはめぐみちゃんと凛ちゃんの間から私を見て「わからないところあったら言って、一緒に考えるから」って言ってくれる。一緒に考えるってなに? でもずっとそばで考えてくれたら、独占できるよね。

「はい、今日はここまでだね。イツキ、メグミ送って行って。リアムは僕と一緒に、メイとリンを送って行こう」
「アオイ、俺と話すんやなかった」
「はあ……わかった。じゃあシュウ、一緒に来て」
 やった。立花くんと一緒に帰れる。めぐみちゃんより一手先に進める。
「明日はリアム頼むね。寮長には、シュウが少し遅くなるって伝えておいて」
「わかった」
 あの人は……空閑くん。顔ちっさ。
「皆さん、ありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」
 よし。囁くような声で印象づけられたと思う。予定通り。
「リン、メイ、忘れ物ないかな。シュウ、鍵頼んでいい?」
「ええよ、鍵かけて職員室に戻したら合流する。待ってて!」
「門のところで待ってるね」
 あっ……ウィンク? 気のせいだよね。

 めぐみちゃんの家は学園の北側にある。私と凛ちゃんは、隣接する大学を越えた先にあるマンション。私たち三人の家は、学園を挟んでほぼ真逆の方向なのよね。
 距離は結構あるし、たくさん話せそうかな。
「立花くんは、勉強していないようでしたが、大丈夫なんですか?」
「僕は、メイが頑張っているところを、眺めているのがいいんだよね」
 はい、いただきました!
「アオイ、その思わせぶりな発言は良うないで」
 うるさい。アンタとは次元が違うの。立花くんは王子様なんだから。
「そうだ。メイがその気になったらどうするんだ。アオイ責任取れるのか?」
 凛まで何言ってるの?
「リンもメイもメグミも、キュートだと思っているだけなんだけどな」
 ほら、また三人ひと塊になっちゃった。
「メイちゃん、こういう男には気をつけなあかんで。歯の浮くようなセリフを、平気で言う奴ほど信用ならん」
 何言ってんの?
「へえ……高梨くんて、随分とアオのこと、悪く言うんだ」
 そうだそうだ。って……『アオ』?
「アオイのことちゃう、一般論や」
「シュウ、貴重なご意見ありがとうございます。でも、僕は海外育ちでね、日本人には歯の浮くような言葉でも、僕にとってはごく当たり前な言葉なんだよね」
 そこがいいのよ。
「皆さん、楽しい方ばかりですね」
「僕の自慢の友だちだからね」
「あの……私もメグミちゃんのように、名前で呼んでもよろしいですか?」
「構わないよ。『くん』は、付けなくていいからね」
「はい」
 よっしゃあ! お墨付きいただきました。
「私もいいかな?」
「リンはもう、『アオ』って、僕とお揃いの呼び方してるよね」
「だよね。……それとは別で。アオ、メイに手を出しちゃダメだよ」
 いえ、手を出してください。
「リンちゃ……アオイく……が手を出さなくても、私から……きゃ!」
「メイ。こいつはやめな。ああ、そこのシュウト……だっけ? 彼にしときな。結構面白そうだぞ」
 いらないから。ほんとやめて、凛。
「リンちゃん……面白そうてなんなん?」
 私の顔に何かついてるのかしら? 高梨くんに見られてる。
 結構距離歩いたけど、今日の収穫は「アオイ」と呼べるようになったことくらいかな?
「ここよ。アオ、ありがとう」
「シュウトくん、ありがとう」
 仕方ない、高梨くんの名前を呼んであげよう。
「メイちゃん、また明日ね」
「バイバイ」
 はぁ、やっと着いた。
「メイ、ほんと男子の前でいい子ちゃんぶるのやめな」
「私、そんなことしてないけど……」
「いいけどさ。後になって、大変な思いするのは自分だから」
 なんなのよ、私は私じゃない。
 こうなったら、凛たちより先に彼氏作って、凛の負け犬の遠吠え聞いてあげる。
 ──────────
 翌日は、葵くんと大山くんが送ってくれた。
「どうして、シュウくんを誘わなかったんですか?」
「今日はリアムと帰ろうねって、昨日約束……リアム? どうしてそんな後ろの方歩いているのさ」
「私、生まれも育ちも関東なの。だから関西弁って慣れなくて……。今日は大山くんで良かった……」
 聞いていない?
「いや、俺でかいから邪魔かなって……」
「そんなことないよ! ほら」
 えっ?! 葵くんが大山くんの背中に……。
「メイ! リアムの背中って、広くてでっかくて、目線も高くなるから、世界が変わるよ」
「そうなんですか? 私、背が低いから、リアムくんが羨ましいです」
 女子で背が高いのもどうかと思うけど……凛ちゃんも背が高いんだよね。
「リアム、メイのことおぶってみたら?」
「アオ、それはある種のセクハラになるぞ。やめておけ」
「そっか。男も女も同じ人間なのにね」
「男と女では体の作りが違うだろう? そういったことでいろいろ問題も……って、どうして私が、成績トップのアオに『保健体育』の授業みたいな話をしなくちゃいけないのよ。まったく」
 凛ちゃん今日もピキってるね。
「リアム、下ろして」
「リアム、アオのお守りも大変だな」
「アオイのお守りなんてしてないよ」
 凛ちゃん、ほかの男子とも、普通に話せるんだ。
「アオの誰にでも優しいのはいいことだと思うが、勘違いするやつも出てくるからな。気をつけないと」
「……」
「アオイ、今日もありがとうな。結構助かってる」
「リン、『結構』って褒めてくれてる?」
 いや、私の話題にして! 凛ちゃんとばかり話さないで。
「当然だ。ありがたいと思ってる」
「良かった」
 凛ちゃん、許さないから。
「リアム。お前もありがとな」
 凛ちゃんて、結構かっこいいかも。
「それじゃ、また明日ね! Bye」
「じゃあな! Bye」
「バイバイ」
「ばい……ばい」
 ──────────
 次の日はあの似非関西弁の人と、空閑くん。
「空閑くんのポジションはどこなの?」
「リアムの対角でミドルブロッカー。いわゆる相手の攻撃を止める人?」
「へえ、そうなんだ」
「メイちゃんは、バレーとかやったことある?」
「中等部の体育の時間にやりました。腕がもげそうでした」
「腕もげるて、メイちゃん! それ、おもろいわ」
「シュウ! 笑いすぎ」
 凛ちゃん……かっこいい。
「メイはね、シュウトのこと、苦手なんだって。初日は、随分気がありそうだったのにね」
「女心なんて、そんなもんやない?」
「私は一途だけどな……」
 えっ?! 凛ちゃんに好きな人がいたなんて。
「あら、どなたに一途なんですか?」
「誰でもいいでしょ」
 まさか凛、葵くんなんて言わないわよね。
「俺、わかるよ」
「はあ?」
「二人ともアオイやろ?」
「ふざけたことを」
「そうですわ。ふざけないでください」
「よし。その言葉アオイに伝えとくわ」
「嫌です。私、アオイくんのこと好きなんですから」
「……」
「リンちゃん、負けたらあかんよ。アオイの好みは……。黙っとこ」
「なんですか? 教えてください」
「せやな、小さい……やな」
 なに? その手の動き……。やだ、『背が小さい』という表現ではなさそうだけど。
「シュウ、お前もウカウカしてられないぞ」
「俺か? 俺はアイツに相応しい男になるまで、友達でええ」
「お前、変わったな」
 なんなの、なんなの? どうして男ってそうなの。
 考え方が単純というか、ロマンばかり追いかけるとか、私には意味不明。
「リン、私負けない」
「あ、アンタ……キャラ変した?」
「えっ?! ヤダ、キャラってなんですか?」
「メイちゃん、ドツボやわ」
 全部アンタのせい。凛も柊斗も敵キャラ認定!
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