「黒猫」もうひとつの物語第二弾「少女たちの願い」
もうすぐゴールデンウィーク。
家族でどこかへ出かけるということもなく。今年もまたダラダラ家で過ごすのかな。
「アオイ、ゴールデンウィーク一緒に出かけない?」
「いいよ。観光地でも案内してくれるの?」
「そんなとこ」
いとこだかなんだか知らないけど、ほかの女子もいるのにあんな大きな声で……。本人は立花目当てじゃないとはいえ、まわりは知らないことだし、誤解を招くわよね。
「メグ、私も一緒にいい?」
「いいよ」
「時間とか教えてね」
まあ、三人で出かけるってわかれば、あまり変な想像はされないよね。
私は、『彼らを二人きりにしてはいけない』と、半ば使命のように……なんて、大袈裟か。
朝、学園前駅に十時集合。
家を出る前にめぐみの携帯にメッセージを送った。……既読がつかない。
私は慌ててめぐみの家に走った。こんな時、朝の犬の散歩が役に立つ。
「おはようございます。一ノ瀬です。メグミさんはいらっしゃいますか」
「あら、めぐみなら今シャワーを浴びていますよ」
なにを悠長なことをしている。立花に連絡するか……クラスのグループから個人的に……。
「あっ、立花? 私、一ノ瀬」
「どうしたの突然」
「今日めぐみと出かけるんだろ?」
「そう……だけど」
「私も一緒に行くんだ」
「そうなんだね」
あれ?! 声のトーンが上がった?
「今、立花家にいるんだけど、メグミのやつ寝坊したらしいんだ」
「うん、さっき慌てて電話してきたよ」
なんだ、知っていたのか。なら話は早い。
「もう少し待っていてやってくれ」
「OK! リン、お姉さん役も大変だね」
「誰がお姉さんだ!」
電話を切って気づいたことがある。
私の手、震えてる?
立花葵天、私まであの笑顔に狂わされているのか? ……そんなはずはない。
「ああ、リン。おはよう」
「おはようじゃない。何時間待たせるんだ」
「まだ三十分だよ。アオイには連絡したし……大丈夫だよ」
めぐみ……って、こんな性格だったっけ? それとも、私だけが焦ってるのか。
「凛ちゃん、お茶が入りましたよ。こちらへどうぞ」
この家の時計は、ほかよりもゆっくり回っているのだろうか。おばさんまでのんびりとして。
ようやくめぐみの支度ができたのは約束の時間から一時間近く過ぎた頃だった。
「アオイ、お待たせ」
「お待たせって……女の子っていろいろ支度が大変なんだね」
「ごめんね」
「……ん、君はさっき電話をくれた子だね。めぐみの取り巻きの人だ」
「同じクラスなんだけど」
めぐみの寝坊から、私の苛立ちが止まらない。
「一ノ瀬凛(いちのせりん)。メグの友達で、決して『取り巻き』ではない」
「ごめんなさい」
「メグの家で、お茶を飲みすぎたわ」
「いやあ、ごめんね。爆睡しすぎて、寝坊したよ」
「リンって呼んでいいかな」
「電話口で何気に『リン』と呼んでいたぞ」
「そうだっけ?」
「私も立花のこと『アオ』って呼ぶから」
あれ……なぜ『アオ』なんて言っちゃったんだ。はずい。
「いいよ。リンとお揃いだね。二文字呼び」
こういうところだよ。人たらしなヤツめ……。
「フフ……リンもお買い物?」
「ふたりの邪魔をしに来たのよ。ふたりきりで出かければ、カプ厨(かぷちゅう)の餌食(えじき)になるだけだし」
「邪魔って……カプ厨の餌食ってなに?」
「ふたりがつきあえばいいのって、噂がたつこと」
なぜ私が、ヲタク用語を説明しなくちゃいけないの?
「アオ、これくらいの用語知っているでしょ!」
「知らないよ」
「アオイ、リンの乙女心に気づいてあげて」
乙女心……めぐみ、変なこと言わないで。私は……。
「メグミ、今日はどこへ連れて行ってくれるの」
「今日はね、みなとみらいに行きましょう」
「もしかして、オシャレなカフェに行くの?」
「ピンポーン」
ああ、スルーした! 仕方ないわ。会話に入ってあげようじゃない。
「アオ、ずいぶんとカフェに乗り気だね」
アオ……自然に言えたよね。
「バンドをやっている友達に、可愛らしい子がいてね。男子だけど……。その子が『甘いもの』と『かわいいもの』と『オシャレなカフェ』が好きで、よく話すんだ。……と言っても、SNSでだけど……」
苦笑いしながら話すんだ。『可愛い』って、その子にも会ってみたいな。
「アオイ、バンドやってるの」
「今はまだ……」
「まだって、アオ楽器できるの」
「一応、ギタリストだから……」
ギタリストって……かっこいい。めぐみは知っていたのかな。
「ここで降りるよ」
葵天と話しているうちに、目的の駅に着いた。学園前駅から一時間弱。目の前に背の高いビルがそびえている。見慣れた光景。
「あのビル、僕の部屋から見えていたな」
「蒼野の家から見えるわけないじゃん」
めぐみ、蒼野の家の場所知ってるんだ。
「蒼野の家じゃないよ。神楽台のマンションのことだよ」
「マンション……どうして? 蒼野の家に下宿しているって言ってたじゃない」
「マンションだと一人暮らしになっちゃうからね」
「親はいないの?」
「パパはアメリカ。母さまはフランス。ふたりとも忙しいんだよね」
「アオイの母上は、私の憧れの女性。その翠叔母さまは、とても知的で素敵な女性なんだ」
「メグミ、目がハートになっているよ」
「当たり前でしょ」
めぐみの『憧れの女性』って、どんな人だろう? 会ってみたいような気もする。
駅から歩くこと十分。ようやく赤レンガ倉庫が視界に入ってきた。
「もう少しだね」
「私、疲れた」
「言い出しっぺがへばるな」
毎度、めぐみのお守りは疲れるよ。
「アオイ、おんぶして」
「しかたないな……」
葵天がすんなりとめぐみをおんぶしている。
「はい、出発進行」
子供か! それにしても、なんか悔しい。このまま赤レンガ倉庫までなんて……なにか引きずり下ろす手はないかな。
「メグ、恥ずかしくないの。それとも、蒼野に告げ口されたいのかな」
葵天の顔色が変わった?
「アオイ、下ろして」
「はあい。どうぞ、お降り下さい、姫」
「よろしい」
姫って……葵天、めぐみで遊んでるのかな。
「アオ、お前のいとこはわがままがすぎるぞ。蒼野にも言っておけ」
「そうする。それに聞きたいことが山ほどできたから、遠征から戻ったら聞いてみる」
この一件で、葵天との距離が縮まったように思えるけど、葵天のめぐみに対する態度ってどういう意味なんだろう。
連休ということもあり、店の中は満席だった。ましてやテラス席なんて、みんなが狙っている特等席。
「やっぱり混んでるよね」
「一時間早ければ、もう少し空いていたかも」
めぐみが寝坊したからだぞ。
しばらく列に並び、ようやく店の中へ通された。ラッキーなことに、テラス席が空いていて、そこへ座ることにする。
「五月の日差しが眩しいわ」
「五月の紫外線が痛いわ」
こんなところが、私とめぐみの違いだ。詩的な言葉なんて浮かんでこない。ただ思ったことをズバッと言ってしまう。男の子は、めぐみや芽衣みたいな女の子がいいんだろうな。
「アオイ、甘いもの大丈夫でしょ」
「平気だよ」
「私はちょっと苦手だ」
「リン、ケーキとか食べないの」
「ビターチョコくらいなら大丈夫かな」
「へえ、珍しいね」
「最近は『スイーツ男子』なんてのが現れたからね。私はそんな男子より、頼りがいのある男子が好み」
「スイーツ好きでも、頼りがいがないとは言い切れないよね」
「わかってる」
意外と反発してくるな。
「リンってさ、男前だよね。女友達一号になってくれる?」
「女友達って……一号ってなんだ」
葵天って結構失礼なヤツだ。
「お前は昼休み、女子に囲まれていたじゃないか」
「あれはね……結構大変だったんだよ。かわいいとは思うけど、話のチョイスが合わなくて……でも、リンとは結構話が合いそうだし」
「話が合うか……いいよ。友達ね」
そうだ。まずは友達からだな。
「赤レンガ倉庫の中にかわいいお店が入ってるんだよ。それとアイス屋さんも。行こ」
こうやって、めぐみ姫の言うままに、振り回された家来だった……って、私はめぐみの家来でも、お姉さんでも、取り巻きでもないぞ!
家族でどこかへ出かけるということもなく。今年もまたダラダラ家で過ごすのかな。
「アオイ、ゴールデンウィーク一緒に出かけない?」
「いいよ。観光地でも案内してくれるの?」
「そんなとこ」
いとこだかなんだか知らないけど、ほかの女子もいるのにあんな大きな声で……。本人は立花目当てじゃないとはいえ、まわりは知らないことだし、誤解を招くわよね。
「メグ、私も一緒にいい?」
「いいよ」
「時間とか教えてね」
まあ、三人で出かけるってわかれば、あまり変な想像はされないよね。
私は、『彼らを二人きりにしてはいけない』と、半ば使命のように……なんて、大袈裟か。
朝、学園前駅に十時集合。
家を出る前にめぐみの携帯にメッセージを送った。……既読がつかない。
私は慌ててめぐみの家に走った。こんな時、朝の犬の散歩が役に立つ。
「おはようございます。一ノ瀬です。メグミさんはいらっしゃいますか」
「あら、めぐみなら今シャワーを浴びていますよ」
なにを悠長なことをしている。立花に連絡するか……クラスのグループから個人的に……。
「あっ、立花? 私、一ノ瀬」
「どうしたの突然」
「今日めぐみと出かけるんだろ?」
「そう……だけど」
「私も一緒に行くんだ」
「そうなんだね」
あれ?! 声のトーンが上がった?
「今、立花家にいるんだけど、メグミのやつ寝坊したらしいんだ」
「うん、さっき慌てて電話してきたよ」
なんだ、知っていたのか。なら話は早い。
「もう少し待っていてやってくれ」
「OK! リン、お姉さん役も大変だね」
「誰がお姉さんだ!」
電話を切って気づいたことがある。
私の手、震えてる?
立花葵天、私まであの笑顔に狂わされているのか? ……そんなはずはない。
「ああ、リン。おはよう」
「おはようじゃない。何時間待たせるんだ」
「まだ三十分だよ。アオイには連絡したし……大丈夫だよ」
めぐみ……って、こんな性格だったっけ? それとも、私だけが焦ってるのか。
「凛ちゃん、お茶が入りましたよ。こちらへどうぞ」
この家の時計は、ほかよりもゆっくり回っているのだろうか。おばさんまでのんびりとして。
ようやくめぐみの支度ができたのは約束の時間から一時間近く過ぎた頃だった。
「アオイ、お待たせ」
「お待たせって……女の子っていろいろ支度が大変なんだね」
「ごめんね」
「……ん、君はさっき電話をくれた子だね。めぐみの取り巻きの人だ」
「同じクラスなんだけど」
めぐみの寝坊から、私の苛立ちが止まらない。
「一ノ瀬凛(いちのせりん)。メグの友達で、決して『取り巻き』ではない」
「ごめんなさい」
「メグの家で、お茶を飲みすぎたわ」
「いやあ、ごめんね。爆睡しすぎて、寝坊したよ」
「リンって呼んでいいかな」
「電話口で何気に『リン』と呼んでいたぞ」
「そうだっけ?」
「私も立花のこと『アオ』って呼ぶから」
あれ……なぜ『アオ』なんて言っちゃったんだ。はずい。
「いいよ。リンとお揃いだね。二文字呼び」
こういうところだよ。人たらしなヤツめ……。
「フフ……リンもお買い物?」
「ふたりの邪魔をしに来たのよ。ふたりきりで出かければ、カプ厨(かぷちゅう)の餌食(えじき)になるだけだし」
「邪魔って……カプ厨の餌食ってなに?」
「ふたりがつきあえばいいのって、噂がたつこと」
なぜ私が、ヲタク用語を説明しなくちゃいけないの?
「アオ、これくらいの用語知っているでしょ!」
「知らないよ」
「アオイ、リンの乙女心に気づいてあげて」
乙女心……めぐみ、変なこと言わないで。私は……。
「メグミ、今日はどこへ連れて行ってくれるの」
「今日はね、みなとみらいに行きましょう」
「もしかして、オシャレなカフェに行くの?」
「ピンポーン」
ああ、スルーした! 仕方ないわ。会話に入ってあげようじゃない。
「アオ、ずいぶんとカフェに乗り気だね」
アオ……自然に言えたよね。
「バンドをやっている友達に、可愛らしい子がいてね。男子だけど……。その子が『甘いもの』と『かわいいもの』と『オシャレなカフェ』が好きで、よく話すんだ。……と言っても、SNSでだけど……」
苦笑いしながら話すんだ。『可愛い』って、その子にも会ってみたいな。
「アオイ、バンドやってるの」
「今はまだ……」
「まだって、アオ楽器できるの」
「一応、ギタリストだから……」
ギタリストって……かっこいい。めぐみは知っていたのかな。
「ここで降りるよ」
葵天と話しているうちに、目的の駅に着いた。学園前駅から一時間弱。目の前に背の高いビルがそびえている。見慣れた光景。
「あのビル、僕の部屋から見えていたな」
「蒼野の家から見えるわけないじゃん」
めぐみ、蒼野の家の場所知ってるんだ。
「蒼野の家じゃないよ。神楽台のマンションのことだよ」
「マンション……どうして? 蒼野の家に下宿しているって言ってたじゃない」
「マンションだと一人暮らしになっちゃうからね」
「親はいないの?」
「パパはアメリカ。母さまはフランス。ふたりとも忙しいんだよね」
「アオイの母上は、私の憧れの女性。その翠叔母さまは、とても知的で素敵な女性なんだ」
「メグミ、目がハートになっているよ」
「当たり前でしょ」
めぐみの『憧れの女性』って、どんな人だろう? 会ってみたいような気もする。
駅から歩くこと十分。ようやく赤レンガ倉庫が視界に入ってきた。
「もう少しだね」
「私、疲れた」
「言い出しっぺがへばるな」
毎度、めぐみのお守りは疲れるよ。
「アオイ、おんぶして」
「しかたないな……」
葵天がすんなりとめぐみをおんぶしている。
「はい、出発進行」
子供か! それにしても、なんか悔しい。このまま赤レンガ倉庫までなんて……なにか引きずり下ろす手はないかな。
「メグ、恥ずかしくないの。それとも、蒼野に告げ口されたいのかな」
葵天の顔色が変わった?
「アオイ、下ろして」
「はあい。どうぞ、お降り下さい、姫」
「よろしい」
姫って……葵天、めぐみで遊んでるのかな。
「アオ、お前のいとこはわがままがすぎるぞ。蒼野にも言っておけ」
「そうする。それに聞きたいことが山ほどできたから、遠征から戻ったら聞いてみる」
この一件で、葵天との距離が縮まったように思えるけど、葵天のめぐみに対する態度ってどういう意味なんだろう。
連休ということもあり、店の中は満席だった。ましてやテラス席なんて、みんなが狙っている特等席。
「やっぱり混んでるよね」
「一時間早ければ、もう少し空いていたかも」
めぐみが寝坊したからだぞ。
しばらく列に並び、ようやく店の中へ通された。ラッキーなことに、テラス席が空いていて、そこへ座ることにする。
「五月の日差しが眩しいわ」
「五月の紫外線が痛いわ」
こんなところが、私とめぐみの違いだ。詩的な言葉なんて浮かんでこない。ただ思ったことをズバッと言ってしまう。男の子は、めぐみや芽衣みたいな女の子がいいんだろうな。
「アオイ、甘いもの大丈夫でしょ」
「平気だよ」
「私はちょっと苦手だ」
「リン、ケーキとか食べないの」
「ビターチョコくらいなら大丈夫かな」
「へえ、珍しいね」
「最近は『スイーツ男子』なんてのが現れたからね。私はそんな男子より、頼りがいのある男子が好み」
「スイーツ好きでも、頼りがいがないとは言い切れないよね」
「わかってる」
意外と反発してくるな。
「リンってさ、男前だよね。女友達一号になってくれる?」
「女友達って……一号ってなんだ」
葵天って結構失礼なヤツだ。
「お前は昼休み、女子に囲まれていたじゃないか」
「あれはね……結構大変だったんだよ。かわいいとは思うけど、話のチョイスが合わなくて……でも、リンとは結構話が合いそうだし」
「話が合うか……いいよ。友達ね」
そうだ。まずは友達からだな。
「赤レンガ倉庫の中にかわいいお店が入ってるんだよ。それとアイス屋さんも。行こ」
こうやって、めぐみ姫の言うままに、振り回された家来だった……って、私はめぐみの家来でも、お姉さんでも、取り巻きでもないぞ!
