「黒猫」もうひとつの物語・第一弾「リアムの恋」

 聖陵学園大学附属高等学校。今日から俺は、この学校の生徒だ。
 アイツは受かったかな……多分大丈夫だろう。英語やフランス語を話せるくらいの頭脳があるんだ、俺より頭はいいはずだ。
 俺は……一組だな。
 教室を見回すと、いた! アイツだ。
「アオイ」
 その髪色、見間違えようがない。
「リアム。君も一組だったんだね」
「同じクラスで良かった」
 葵天も俺も、嬉しさのあまり見つめ合ってしまった。
 周りのクラスメイトが、何かヒソヒソと話をしているが、そんなことは気にしない。
「蒼野樹は何組だった?」
「五組だよ。ほかの人たちはどうしたかな? 結城くんとか、空閑くん。それと……高梨くん」
 蒼野絡みの、バレーやってる連中かな。
「まだ時間があるから、探してみるか」
「ちょっとした冒険だね」
 コイツのその笑顔は狂気だな。俺の心臓、うるさい。
 二組の教室を葵天が覗いている。片足曲げてるなんて、女子の仕草かよ。
「空閑くん」
「あっ?! 立花。何組」
「僕は一組だよ」
「えっ?! 大山リアム……」
 中学が聖陵だったヤツ。
「君って、意外と有名人だね」
「でかいからな」
 リアムが苦笑いを浮かべる。
「今、ほかのみんなを探しながら、探検しているんだよ!」
「探検て……お子ちゃまか」
「いいの、行くよ」
「お、おい」
 葵天が、空閑の手を引いて三組へと向かった。
 三組、四組を覗いても、知っている顔がいなかったとみえる。
「残り四人は、五組に集結だな」
 空閑がそう言うと、葵天の足は五組へと向かった。
「イツキ、僕リアムと一緒だったよ」
「よう、セイヤも一緒か」
「残念ながら、俺は二組でひとりだ」
 空閑の声が寂しそうだな。俺は、葵天と一緒で良かった。
「アオイ、こいつリベロの山田健太(やまだけんた)。まだ紹介してなかったよな。ちっさいけど、俺らの守護神」
「山田くん、初めまして。立花葵天です」
「ちっさいけど、バックの守りは誰にも負けないから」
 そう言いながら、山田が樹の顔を睨みつけている。コイツも負けず嫌いなのかもしれない。
「お前ら、そろそろ時間だ。クラスへ戻れ」
 蒼野の一言で、俺たちはそれぞれのクラスへ戻った。
 クラスに戻ると、担任らしき教師が、廊下へ並べと促す。
「軍隊みたいだね」
 葵天の無邪気な言葉がたまらん。
「集団で動く時なんてこんなもんだろ?」
 葵天の顔が強ばって見えるのは、なぜだろ。
「だって、ここは軍隊じゃないんだよ。僕、戦争する軍隊なんて嫌いだ」
 おい、そんな悲しそうな顔をするなよ。いつものように笑っけくれよ。
「そうだな。葵天が嫌いな『戦争』は、日本ではしちゃいけないことになっている……と、思う。だから、ここは平和な国だ。安心しろ」
「でも他の国では……」
「アオイ、俺たちはまだ子供だから、そういうことは大人に任せようぜ!」
「……」
 納得していないか。

 講堂の二階席には、新入生の保護者たちが席に着いている。そして、一階席には新入生たちが並んでいる。
「何かステージでパフォーマンスでもやるのかな」
「バカ。えらい大人たちが長話をするだけだよ」
 長話なんて、なむくなるだけなのにな。面倒くさいだけだ。
「これより、第……」
 司会者の掛け声で、入学式が始まった。
「新入生挨拶。一年一組、立花めぐみ」
「アオイ、お前と同じ苗字だな」
「僕のいとこだよ」
 いとこがいたのか。アオイの一族は天才揃いなのか? この学園自体、成績重視だからな。上位のヤツからクラス分けされる。
「今あそこにいるってことは、試験ではトップなんだろうな」
「そういう決まりがあるの?」
「まぁ、だいたいそうだな」
「成績トップか……」
 やっぱり大人たちの長い話が延々と続く。葵天も、眠気と戦っているな。頭がふらふらしてるぞ。俺に体を預ければいいのに……って、俺、不純。顔が熱い。
 式典を終えて、それぞれのクラスへと戻って行った。
 クラスへ戻るとまず、担任が自己紹介を始めた。
「坂井徹。テツと書いてトオルと読ませる。どうだ、かっこいいだろ?」
「てっちゃん!」
「誰だ! 担任に対してちゃん呼ばわりするやつは?」
「……」
 誰だ? 初日から問題起こすなよ。
「坂井先生、初日から愛称で呼ばれるなんて、愛されていますね」
 はあ?! 葵天、何言ってんだ。
「立花、お前か。ちゃん呼びしたのは」
「違いますよ。僕は何も言っていません。責任が持てない行動はしない主義ですから」
 正面切って担任に楯突くなんて、俺にはできない芸当だ。
「まぁいいだろう。これからは、高校生らしくあるようにだな……」
「先生!」
「なんだ。またお前か、立花」
「何をもって『高校生らしく』なんでしょうか」
 ヤバイ、オワタ。
「何をもって……理屈をこねるな。明日からはオリエンテーションなど、生活態度についての話をします。教科書はまだいらないが、筆記用具などは忘れないように。今日はこれで終わる」
 おいおい葵天さん、初日から担任をイラつかせんなよ。
「アオイ、担任に喧嘩売ってどうするよ」
「喧嘩なんて売っていないよ。そもそも喧嘩は売らないでしょ。でも売るってどういう意味なの?」
「アオイが担任に対して、喧嘩をしかけたように見えたんだよ。それを『売る』って使うんだ」
「リアム賢い」
 拍手してくれるほどの話か?
「あなた、立花葵天でしょ」
 コイツ、式典で『新入生挨拶』をしていたヤツだ。葵天のいとこ。
「あなた、将棋部に入りなさい!」
「君は……成績トップの立花めぐみさん。母さまのお兄様の娘さん」
 回りくどいな。
「な、なによ。普通に『いとこ』って言えばいいじゃない」
「そう、だよね」
 葵天、いとこが拍子抜けしてるぞ。
「まあいいわ。あなた、将棋部に入りなさい」
「どうして。僕が入る部を、なぜ君が決めるの」
「どうせ日本に来たばかりで友達なんていないんでしょ。私が入部する『将棋部』に、あなたも入りなさいって言ってんの」
「僕がやるのは『チェス』だよ」
「将棋もチェスもそんなに変わらないでしょ」
 コイツ、無茶苦茶だな。
「僕は他人に命令するのも、されるのも嫌いなんだよね」
 そうだそうだ。俺はこういう気の強い女は苦手なんだ。さっさと交わして退散しようぜ。
「私は、命令なんてしてないわよ……」
「でも、そんなふうに聞こえるよ。僕は僕がやりたいことをするんだ。だから君にとやかく言われたくない」
「そう。もし、気が変わったらいつでも将棋部へいらっしゃい。面倒、見たげるから」
 なんだ、終わったのか? 案外気弱な女子だったんだな。

 葵天とふたりで教室を出ると二組から空閑が声をかけてきた。
「立花、帰るのか」
「うん」
「俺らこれから部活なんだ」
「えっ、リアムも……」
「おお」
「イツキも部活だって言ってなかった」
「聞いてない……僕、聞いていない」
 葵天の様子がおかしい。
「おい、アオイ待てよ」
 俺は葵天の手を掴み、足止めをした。
「本当は春休みから部活に参加するはずだったんだ。でも、寮生ではない蒼野は、まだ参加していないんだ」
「えっ……それって僕がいなかったらイツキはとっくに部活に参加してたってこと……」
 葵天のせいじゃないぞ。でもきっとコイツは、そう感じているんだろうな。

 俺たちは三人で五組へ向かった。
 教室の中から、先生が大きな声と一緒に、生徒たちの笑い声がする。
「それじゃあまた明日。気をつけて帰れよ」
「先生、さよなら」
 教室から次々と生徒が出てくる。
「アオイ。迎えに来てくれたのか」
「いいや」
「そこは嘘でも『そうだよ』くらい言えよな」
 蒼野、タイミングが悪い。
「イツキ、相変わらず立花には冷たくあしらわれとんな」
「うるっさい」
 蒼野、そんなヤツとじゃれてる場合じゃないんだ。葵天の顔をよく見ろよ。
「アオイ、どうした。顔が怖いぞ」
「イツキ、アオイに部活のこと話してなかったのか」
「はあ、何を」
「イツキ、春休みから部活に参加するんじゃなかったの。僕がいたから参加できなかったの」
 葵天は今にも泣きそうだった。蒼野どう責任取るんだ。
「俺の意思だよ。それに、春休みから参加するのは強制じゃない。入部届け出してからだっていいんだから」
「からだ鈍るよ。お腹ブヨブヨになるから……」
 蒼野の体……見たことあるのか?
「腹筋、腕立て、ランニングは毎日してました。アオイが、母さんと楽しそうに料理してる時」
「それ、イツキの焼き餅やんな」
 なに?! 焼きもちってことは……ライバル出現!
「焼いてなんかない」
「それでも、ちゃんと話して欲しかったな。僕はイツキの足枷になんかなりたくない」
 葵天……そんなに嫌なのか、蒼野が言わなかったこと。
「イツキのバカ」
 葵天のあとを追いかける蒼野は一体なんなんだ。葵天とどういう関係なんだよ。付き合ってんのか? まだなのか。
 俺も追いかけたい……。
「おい、リアム。部活行くぞ」
「お、おう」
 今俺が葵天を追いかけても、何もできない。かえって邪魔になるだけだ。でも、できることなら、そばにいて慰めてやりたい。キスして、抱きしめて……って、まだ付き合ってもないぞ。告白すらしていないっつうの。
 ……蒼野には葵天を笑顔にする力があるのかな?
 俺には……待つしかないんだよな。
 明日は葵天の、天真爛漫なあの笑顔に会えるかな。会いたいな。 
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