「黒猫」もうひとつの物語・第一弾「リアムの恋」

 俺はアメリカで生まれた。親父はアメリカ人のプロのバレーボール選手。お袋は日本人で、献身的に親父のサポートをしている。
 俺も小さいころから「パパみたいにかっこよくなる!」なんて言って、ボールを追いかけていた。
 親父がアメリカナショナルチームの一員として、世界大会に出場した。
 たとえそれがピンチサーバー要員だとしても、俺の目にはかっこよく映った。
「パパ、俺もナショナルチームに呼んでもらえるような選手になれるかな?」
「リアム、君はアメリカと日本、どちらのチームに入りたいんだい?」
 アメリカと日本……。そんなつもりで聞いたわけじゃないんだ。それでも、どちらかに決めろと言うなら……。
「日本かな……目の色でとやかく言われないと思うし……」
「そうか、やはり学校で何かあったんだな?」
「……」
「マリコが心配していたんだよ。君が時々泣いているって……」
「……」
「大丈夫。君が日本へ行ったとしても、パパはパパだろ? 君のことを応援しているよ」
「…………ありがとう。俺パパの目の色、好きだよ!」
 親父も漆黒の瞳だ。
 俺は、お袋の故郷である日本へやってきた。
「リアム、大丈夫?」
「かあさん、俺は大丈夫だから、安心して」
「じじばばの言うこと、よく聞いてね」
「わかってる。自分のことは自分でできるし、じじばばの手伝いもちゃんとする」
 俺は、お袋の母校である神楽台中学に入学した。
 俺の身長は180センチ。学校のどこにいてもほかのやつらより頭がひとつ出ているので、何をやってもすぐ目につく。おかげで、真っ先に注意されるのは、いつも俺だ。
「大山! 黒板に落書きするな!」
「はっ?! してません」
「上の方に書けば、目立たないとでも思ったか?」
「書いてませんって!」
「まあ、いいだろう。お前はどこにいても目立つんだから、どうせ目立つならいいことで目立てな!」
 …………。何をやっても俺が悪い? 何もしていなくても俺が悪い? どこにいても他人と違うからダメなのか? 世の中みんな一緒でなければいけないのか?

「お前、手ぇ伸ばすだけでネットから出るよな」
「ん?!」
「なんでお前、ここ神楽台中学に来たの?」
「お袋の母校だから……」
「聖陵学園の中等部行けば良かったのに」
「聖陵学園?」
「そう、あそこのバレー部強ぇんだ。去年も全国制覇してる」
「全国……」
「お前の父ちゃんアメリカでバレー選手してんだろ?」
「うん」
「聖陵学園で全国行けば、U17に選ばれる可能性も出てくるぞ。ただ……あそこは私学だし、金かかりそうだよな」
「そうか……」
 私学となれば学費とかかかるよな。親に負担かけられないよな。
「大山、志望校決めたか?」
「先生、学費が免除されるようなシステムはないんですか?」
「どこか行きたい学校はあるのか?」
「俺、聖陵学園でバレーがしたいです」
「先生もそんな気がしてたんだよな。資料揃えとくから少し待ってろ」
「はい」
 両親に相談したいけど、今シーズンで親父もお袋も忙しいんだろうな。
「リアム、何か悩み事でもあるかい?」
「ばあちゃん、なんで?」
「暗い顔してるからね。それでどうしたんだい?」
「ばあちゃん、聖陵学園って知ってる?」
「聖陵……知らないね」
「だよね……」
「行きたいのかい? お金のこと心配しているのかい?」
「…………」
「たった一人の孫息子がやりたいことを見つけたんだ。ばぁちゃんは応援するよ。まぁ金銭的には無理かもしれないけどね」
「ありがとう」
 やっぱり、無理だよな……。自分でも調べてみようかな。
 聖陵学園大学附属高等学校……。あった!
『特待生制度』これか?

「大山! パンフレット持ってきたぞ。ここのな『特待生制度』ってのがな……」
「はい。俺、勉強頑張ります!」
「なんだ、お前も調べたのか? ただあそこのレベルは高いぞ。お前の成績より少し……もうちょいかな……まぁ、頑張れ!」
「はい!」
 やっぱ日本語は難しいな。でも、お袋が家の中で日本語を使っていてくれたから、理解はできる。とにかく、できるだけのことはやろう。

 聖陵学園大学附属高等学校、受験日。

 目の前の席に、綺麗なブロンドの髪のやつがいる。染めてる? でも、この学校はそこまで自由なのか? 話しかけようか? やめようかな……。
「あの」
 つい、突っついてしまった……。
「なに。日本語、話せるよ」
「あっ、ごめん」
「それで要件はなんですか」
「いや、髪の色があまりにも鮮やかだったからつい」
 ついはまずかったか? もっと気の利いた台詞が良かったか? それにしても……髪だけじゃなくて、瞳も綺麗だな。
「あの……日本人か」
「ああ……フランスと日本のダブル。日本国籍を持つ、れっきとした日本人だよ」
 おお、俺と似たような境遇か? なんか嬉しいな。
「そうか……俺は、アメリカと日本のダブル。日本国籍。大山リアム、ヨロシク」
 右手を差し出すと、彼も自然に握手してくれた。……この感覚久しぶりだな。
「黒い瞳が綺麗だね」
 はっ?! はぁ? そんなこと初めて……いや何年か前にも確か……言われた。どうしよう、心臓うるさい! 黙れ! 落ち着け、落ち着いて何食わぬ顔で話すんだ。俺ならできる。
「リアム! ノア・デイビッド・ミラーの息子」
「お前は……」
「あっ、ごめん。僕、立花葵天。フランス名ミシェル・エミール・ド・リシャール。ギタリストのミシェルだよ」
「世界大会の前夜祭で……」
「そうだよ」
 まさかこんな所で再び会えるとは思わなかった。
「君のその漆黒の瞳。忘れていないよ。とても綺麗だ」
「ありがとう」
「でも、どうして日本にいるの」
「あの世界大会の後、日本へ来たんだ」
「僕は、去年のクリスマスに日本へ来たんだよ。でもなぜこの試験を受けるの? ここちゅうとうぶがあるから……」
「ここ私学でお金かかるから、とりあえずばあちゃんちの近くの中学へ入学したんだ」
「そうだったんだね」
「でも、どうしても全国へ行きたくて、授業料免除のシステムを調べて、チャレンジすることにしたんだ」
「授業料免除……」
「特待生に認定されると……って難しいか。ざっくり言うと、返さなくていい奨学金で学校に通えるみたいな感じで……ああ、とにかく、特待生になって、少しでも親を楽にしてやりたい。それだけだ」
「しょうがくきん……」
 わからないワードがいっぱい出てきた。夜にでも、樹に聞いてみよう。
「ところでさ、ミシェル……」
「ごめん、今、日本名を名乗っているんだ。立花葵天。アオイって呼んでよ」
「そっか。アオイ……」
「はい。私語は慎むように。テスト用紙を配ります」
 ──────────
 午前中の試験が終わった。
 俺は、思い切って葵をランチに誘った。
「一緒にランチしないか?」
「OK」
「なあアオイ、なんで日本へ来たの」
「イツキに手を引かれて来たんだよ。この学園のちゅうとうぶでバレー部にいた、蒼野樹」
「えっ。日本の中学生で五本の指には入るといわれた、あの蒼野か」
「イツキってそんな凄かったんだ」
「イツキ……ってさ」
「あの世界大会の時もいたよ。君とお魚料理を沢山食べて『もう食べられない』って……フフフ。笑ったね」
「そうか、アイツ中学の時対戦しても何も言わなかったぞ」
「君、身長伸びたでしょ」
「ああ、中学の頃急激に伸びて……それでわからなかったのか」
「イツキも大人っぽくなってたしね」
 葵天のことはわかったのに、蒼野のことは思い出せなかったって、申し訳ないの一言だな。
「ねえ、リアムの家はこの辺なの」
「いや、電車で四十分くらいかな」
「電車……あっ初詣の時に一度乗ったことあるよ」
「でも、俺この学園に入れたら、寮で生活するんだ」
「どうして」
「部活があるから」
「そういえば樹も朝早くから出かけて、夜遅くまで練習しているって言っていたな。休みが週に一度だけだって」
「そんなのいいほうだよ。俺が行ってた神楽台中学は時間はさほど遅くならなかったけど、部活が休みになることはなかったから」
「年中無休……僕の仕事よりハードだ」
「ミシェルの活動していた時はやっぱり忙しかったのか」
「それなりに。でも日本人ほど働かないよ。体壊しちゃう」
「俺の親父も言ってた。日本人は働きすぎだって」
「ところで、さっき中等部に蒼野がいるって……」
「うん。四月からは同じ高等部だよ。受かればだけど」
「ハハハ。これは全国制覇はもらったな」
「ん?」
「蒼野と俺がいれば、全国もめじゃないってこと。絶対優勝する」
「わあ、リアムかっこいい」
 なんだろう。この無邪気に手を叩く葵天が……可愛い。
「なんつってな」
 まったく、照れるだろ……。
「リアムって可愛いね」
「はぁ?! よせ、かっこいいの次は可愛いっておかしいだろ」
「ごめん……かっこいいよ」
 ダメだ、もう心臓が爆発寸前だ。落ち着け。
 ──────────
 試験が終わって思うこと……葵と話している方が楽しかったな。
「アオイ、明日の面接何時から?」
「僕は十時に学校へ来なさいって指示されているよ」
「そっか! 俺もその時間だ」
「受験番号が隣り合わせだからね、同じ時間で間違ってないと思うよ」
 そりゃそうだな。俺、変なこと言っちゃったかな。
「アオイ! 終わった? ……ってお前大山リアム!」
「あっ?! 蒼野樹」
「なんでお前ここにいんだよ」
「一般入試受けに来たんだ、悪いか!」
 なんで? こんなところにこいつがいるんだよ!
「お前、受かんの」
「なめんなよ」
 そういえば、幼なじみって言ってたか。
「shut up! 落ち着け!」
「アオイ、なんで大山と一緒にいんの?」
「受験番号が隣だったから、今日一日一緒にいたんだよ」
 そうそう、これは偶然だ。
「大山、受かったらバレー部に入るのか?」
「当然! 全国制覇するために、ここを受けに来た」
「リアムってかっこいいよね」
 その笑顔……たまらん! 顔が熱くなる。
「俺だって全国制覇するって決めてんだよ」
 俺と蒼野。どちらともなく右手を出して、握手していた。
「ぜってい受かってこいよ! 全国制覇だかんな」
「任せろ!」
 蒼野樹……案外、いいやつかもしれない。
「じゃあね、リアム! また明日。Bye」
「じゃあな! Bye」
 立花葵……。男に好かれても「気持ち悪い」って言われるのがオチかな。それでも……蒼野なんてやつも現れたし……俺は俺の思いを貫く。(拳を握りしめて……俺、何してんだ?)

 立花葵天……まさか、こんなところでまた会えるなんて思ってもみなかった。
 この学園に入学すれば、葵天と一緒に三年間過ごせる。
 この学園でバレーボールの全国制覇が出来れば、大学もその先へもいけるかもしれない。
 この試験、どうしても受からなくちゃ。やってきたことすべて出し切って、合格しなくちゃ。
 大丈夫。俺には天使が微笑んでくれている。きっと上手くいく。もう一度天使に会わせてくれて、ありがとう。
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