黒猫
あの日、樹が僕に話せなかった『リック』については、「父さんに話してから」だったのか、「知っているけど話せない」だったのか……。どちらにしても、僕のことを思ってのことだと信じたい。
それにしても、僕が日本に来て半年。僕の世界がこんなに変わるなんて思わなかった。
体を動かすことは好きだったから、バスケもビーチバレーもよく遊んだ。音楽はもっと好きだ。いや、大好き……好きなんて言葉では言い表せない。だって、もはや僕の血液みたいなものだから……ちょっと大袈裟かもしれない。
いろんなことが、僕の知らないうちにもっと変わっていくんだろうな。
「全校朝礼を行いますので、生徒のみなさんは、ホールに移動してください」
放送部のアナウンスで、僕たちはホールへと移動した。最近は廊下に並んで移動するといった軍隊のようなことはしない。(僕、あれは嫌いだ)
ホームルームのあと、各自で指定された時間までにホールへ行く。ホールではクラス単位で場所が決められているので、各々席に座って待つのだ。
クラス内なら場所の指定は無いので、僕はリアムと座ろうと思い、彼を探した。
「桐山くん、リアム見なかった」
「アイツなら、ステージ脇へ行ったぞ。バレー部は表彰されるんだと」
「どうして……って、県大会で優勝したからか」
「そう。次はインターハイだろ? 学園長も嬉しいんじゃないか」
学園長はともかく、樹やリアムたちが表彰される……すごいな。
「先日、全国高等学校総合体育大会、インターハイにおける、バレーボール予選の県大会が行われました。そしてわが校のバレー部が優勝し、インターハイ出場を決めてくれました。選手諸君、ステージへ」
優勝旗を手にした槙キャプテンをはじめとするベンチ入りメンバー十四人と監督が壇上に上がった。そのうちの六人は一年生だ。
再び生徒たちからの盛大な拍手が沸き起こった。
槙キャプテンが優勝旗を学園長に渡し、県大会で優勝したことを全校へ向けて報告した。
「会場に足を運んでくれたみなさん。そうでないみなさんも、応援ありがとうございました。今大会はあくまでも通過点。最終目標は全国制覇です。また明日から目標へ向かって頑張ります」
「キャー、槙くん」
「かっこいい」
「咲良くん」
あちらこちらから黄色い声援が上がった。まるで僕のステージのようだ。あっ、僕じゃない、パパのステージだった。
「アオ、なんか面白いことでもあった」
「あっ、リン」
「顔、ニヤけてるよ」
僕は自分の頬を両手で擦り、にやけ顔を戻そうとした。
「最近、アオって三枚目っぽいよね」
「三枚目って何?」
「道化っぽいってこと」
「えっ、ピエロみたいなのかな」
「そう、入学当初は物静かで知的そうに見えていたのに」
「今は……見えていない?」
「私は、滑稽なアオもいいと思うよ。そんなアオも私のタイプだから」
「タイプって、彼氏にでもしてくれるの?」
「なるか」
「ならないよ。だってリンは親友のようなものでしょ」
あれ、これ回答間違えたかな。
「そ、そうか。私は親友『みたいなもの』か……。親友にもしてくれないんだな」
えっ、怒った?
「でも、友達の立ち位置は変わらないならいいかな。気が変わったらいつでも言って。私の推しには違いないから」
「推し……」
推しってなんだろう。そういえば最近ネットでも聞く言葉だ。
「おっ、アオイいた」
後ろを振り向くと、バレー部一年が揃って席に座っていた。
「アオイ、俺らかっこよかった?」
「うん。樹もリアムもかっこよかったよ」
「アオイ、俺は? かっこよかったって言うて」
「シュウも、ほかのみんなもかっこよかったよ」
僕の左の肩にリアムの手が乗せられた。この行為には答えるべきものなのか、そうでないのか、わからないまま朝礼が終わった。
──────────
「そろそろ期末だな」
「これ以上成績下げたら、ゲーム機没収だよ」
「没収ならいいよ、俺ん家の母ちゃん捨てるって言うんだぜ。がんばんなきゃ」
みんな、何かしらを守るために頑張るんだな。バレー部も、部活のために勉強を始めたんだった。理由は人それぞれ。それでも、上を目指すために頑張るんだから。僕も頑張ろう。
「アオ、テスト前一週間だよ。また勉強会やるんでしょ? 私たちもいいよね」
「いいよ。一緒に勉強しよう」
「帰りアオが送ってくれるのか?」
「今日は僕とリアムで送ろうか」
「そうしてくれると嬉しい」
「うん。じゃあめぐみの方は……」
「蒼野を頼みたい」
「それって……」
「これは……友達として、めぐみの応援をしてやりたいだけなんだ」
「応援……ん?! めぐみって……そうなの? イツキ……」
「こら、声がでかい」
リン、口と鼻を塞いだら息できないよ。
「……」
「あっ、ごめん。苦しかった?」
「大丈夫。でもリンの手って意外に大きいんだね」
あっ、また台詞間違えた……かな。
「女子の中では背が高い方だから、手も大きくなっちゃったの」
「どれ、合わせてみて……」
本当だ。僕より少しだけ小さいくらいだ。
「指が長いんだね。綺麗な手をしている」
「はっ、よしてよ。デカいって笑いなさいよ」
「なぜ、笑わなくちゃいけないの」
「なぜって……照れるでしょ」
「そっか」
僕は笑顔を浮かべながら、リンの手をスリスリしてみた。
「アンタ、詐欺の素質あるわね」
「詐欺?!」
僕は何者なんだろう……。
「リン……僕は何者?」
「悪者」
「ガーン!」
また僕はひとつ階段を踏み外した気分だった。
──────────
放課後、一年五組。
「今日はこのくらいにしよう」
「前回やってるから、二度目は要領よくできたな」
「やればやるだけ身につくこともわかったしな」
「お疲れ様。イツキ、めぐみを送っていって。リアム、僕と一緒にリンたちを送ろう」
「なあ、いつもお前らばっかじゃ悪いからさ、明日からは俺らにも送らせて」
「そうだね。順番決めてくれるとありがたいな」
「わかった」
「じゃ、みんなまたあしたね」
本当は彼らも女子と接点が欲しいんだろうな。もし仲良くなったら、部活の励みにもなるかもしれない。僕って案外お節介だったんだな。
「メイ、暗いから足元に気を付けてね」
「はい。あの……アオイくん、手を……」
「メイ、私が手を繋いであげるよ。アオは男だし、恥ずかしいかもだし」
「えっ、僕……」
「アオイ、一ノ瀬の提案に乗っかっとけ」
「はい」
「お前は俺とな」
僕は思わずリアムの顔を見上げた。真面目な顔をして僕の手を握っている。でも耳が真っ赤だ。
四人で帰っているのに、会話もなく、ただ黙々と歩いた。気がつくと、ふたりが住むマンションの前に着いていた。
「もう着いちゃった」
芽衣が残念そうに話す。
「そうだね。ふたりとも、また明日ね。Bye」
「バイバイ」
なんだろう。緊張感とも、気恥ずかしさともわからない、この感じ……どうしよう。
「アオイ、少し話していいか」
「いいけど、リアムの顔見るのに首が疲れちゃうから、おんぶしてくれる?」
「おんぶ……」
「Hup!」
「……」
「リアムの背中って広いし温かい」
「そうか」
「それで、話ってなぁに」
「俺さ、俺……男にしか興味がないんだ」
「それで」
「それでって……気持ち悪いとか思わないの?」
「なんで」
「お前……」
「男と女しかいないんだよ。男にしか興味がないのが、そんなにいけないことなの?」
「いけないわけじゃないけど、気持ち悪いって言われる」
「誰に」
「誰にって、クラスのヤツらとか……。中学の時もそうだった」
「そんなヤツらはこっちからバイバイしちゃいなよ」
「アオイ……」
「僕は、リアムのいいところいっぱい知っているし、リアムのこと好きだし、かっこいいと思ってるよ」
「俺も、アオイのそういう誰にでもフラットなところが好きだよ」
「それだけ?」
「それだけって……お前の笑顔も話し方も声も全部好きだよ」
「ありがと」
僕はリアムの背中で安心していた。その大きな背中が懐かしくて……懐かしいってなんだろう。
「もう学園の裏門だ。アオイ、降りて」
「うん。ありがとう」
「さっき、変なこと言って悪かったな」
「変なことなんて言ってないでしょ。本当のリアムを見せてくれただけ、だよね」
「ああ、そうだよ。アオイが好きだと本当のことを言った」
「僕も、リアムが好きだって、本当のことを言ったよ」
その先の言葉をふたりとも口にはしなかった。でも、僕を見つめるリアムの漆黒の瞳は、夜でもはっきりとわかるほど美しかった。
「リアムの瞳、僕好き」
リアムにハグをして、「Bye」と言葉を交わし、その日は別れた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
手を洗って、そのまま食卓に着くと、樹が怖い顔をして僕を見ている。
「アオイさ、俺ばっか立花送ってね?」
「明日からは、みんなで分担することになったから……ね」
「だけど、今日までなんで俺が立花を送ることになったのか、話してもらいたいんだよ、俺は」
「ご飯終わったら部屋でゆっくり話すから、ね」
「ね、じゃねえ」
樹が怒っている。でも、別に悪いことじゃないんだ。ちゃんと話せばわかってくれるよね。あっ?! 『ね』は僕の口癖だ。
夕食とお風呂を済ませ部屋に戻ると、すでに樹が僕のベッドに座っていた。
「ホレ、話して」
「めぐみのことかな」
「立花はさ、アオイの話しかしねえんだ」
「うそ!」
「時々『好きな食べ物』とか、『甘いもの好きか』とか、聞いてきたけどな。だけど、いきなりお前の子供の頃の写真を見せられた時はびっくりしたぞ」
ハハハ、それは照れ隠しかも……気がついてあげて。
「あとさ。朝礼の時、今日俺らがお前の後ろに座った時の話」
なんだろう。僕、なにか失敗したかな。
「お前の真後ろに、リアムが座ってたの、知ってたか」
「知ってた」
「リアムがお前の肩に手置いたの気づいた?」
見てたんだ……どうしよう。
「そうだった?」
「お前、リアムのこと、好きなのか」
「好きだよ」
「それは恋愛的な意味か?」
「わからないよ」
「わかんないって、お前」
「みんなのことが、好きなんだもん」
「それは、友達としてだよな」
「うん」
「お前の、誰にでもフラットなスタイル、時には勘違いするヤツがいるから、気をつけろよ。俺もそのひとりだけど……。まっ、俺からはそれだけ。寝るわ」
つっけんどんだけど、どこか優しい。樹、ごめんね。
もし、樹とめぐみが仲良くなったら嬉しい。でも、少しだけ寂しい。
いつか僕にも、一緒にいたいと思える人が現れたら、その時は……樹も『寂しい』って思ってくれるのかな。
それにしても、僕が日本に来て半年。僕の世界がこんなに変わるなんて思わなかった。
体を動かすことは好きだったから、バスケもビーチバレーもよく遊んだ。音楽はもっと好きだ。いや、大好き……好きなんて言葉では言い表せない。だって、もはや僕の血液みたいなものだから……ちょっと大袈裟かもしれない。
いろんなことが、僕の知らないうちにもっと変わっていくんだろうな。
「全校朝礼を行いますので、生徒のみなさんは、ホールに移動してください」
放送部のアナウンスで、僕たちはホールへと移動した。最近は廊下に並んで移動するといった軍隊のようなことはしない。(僕、あれは嫌いだ)
ホームルームのあと、各自で指定された時間までにホールへ行く。ホールではクラス単位で場所が決められているので、各々席に座って待つのだ。
クラス内なら場所の指定は無いので、僕はリアムと座ろうと思い、彼を探した。
「桐山くん、リアム見なかった」
「アイツなら、ステージ脇へ行ったぞ。バレー部は表彰されるんだと」
「どうして……って、県大会で優勝したからか」
「そう。次はインターハイだろ? 学園長も嬉しいんじゃないか」
学園長はともかく、樹やリアムたちが表彰される……すごいな。
「先日、全国高等学校総合体育大会、インターハイにおける、バレーボール予選の県大会が行われました。そしてわが校のバレー部が優勝し、インターハイ出場を決めてくれました。選手諸君、ステージへ」
優勝旗を手にした槙キャプテンをはじめとするベンチ入りメンバー十四人と監督が壇上に上がった。そのうちの六人は一年生だ。
再び生徒たちからの盛大な拍手が沸き起こった。
槙キャプテンが優勝旗を学園長に渡し、県大会で優勝したことを全校へ向けて報告した。
「会場に足を運んでくれたみなさん。そうでないみなさんも、応援ありがとうございました。今大会はあくまでも通過点。最終目標は全国制覇です。また明日から目標へ向かって頑張ります」
「キャー、槙くん」
「かっこいい」
「咲良くん」
あちらこちらから黄色い声援が上がった。まるで僕のステージのようだ。あっ、僕じゃない、パパのステージだった。
「アオ、なんか面白いことでもあった」
「あっ、リン」
「顔、ニヤけてるよ」
僕は自分の頬を両手で擦り、にやけ顔を戻そうとした。
「最近、アオって三枚目っぽいよね」
「三枚目って何?」
「道化っぽいってこと」
「えっ、ピエロみたいなのかな」
「そう、入学当初は物静かで知的そうに見えていたのに」
「今は……見えていない?」
「私は、滑稽なアオもいいと思うよ。そんなアオも私のタイプだから」
「タイプって、彼氏にでもしてくれるの?」
「なるか」
「ならないよ。だってリンは親友のようなものでしょ」
あれ、これ回答間違えたかな。
「そ、そうか。私は親友『みたいなもの』か……。親友にもしてくれないんだな」
えっ、怒った?
「でも、友達の立ち位置は変わらないならいいかな。気が変わったらいつでも言って。私の推しには違いないから」
「推し……」
推しってなんだろう。そういえば最近ネットでも聞く言葉だ。
「おっ、アオイいた」
後ろを振り向くと、バレー部一年が揃って席に座っていた。
「アオイ、俺らかっこよかった?」
「うん。樹もリアムもかっこよかったよ」
「アオイ、俺は? かっこよかったって言うて」
「シュウも、ほかのみんなもかっこよかったよ」
僕の左の肩にリアムの手が乗せられた。この行為には答えるべきものなのか、そうでないのか、わからないまま朝礼が終わった。
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「そろそろ期末だな」
「これ以上成績下げたら、ゲーム機没収だよ」
「没収ならいいよ、俺ん家の母ちゃん捨てるって言うんだぜ。がんばんなきゃ」
みんな、何かしらを守るために頑張るんだな。バレー部も、部活のために勉強を始めたんだった。理由は人それぞれ。それでも、上を目指すために頑張るんだから。僕も頑張ろう。
「アオ、テスト前一週間だよ。また勉強会やるんでしょ? 私たちもいいよね」
「いいよ。一緒に勉強しよう」
「帰りアオが送ってくれるのか?」
「今日は僕とリアムで送ろうか」
「そうしてくれると嬉しい」
「うん。じゃあめぐみの方は……」
「蒼野を頼みたい」
「それって……」
「これは……友達として、めぐみの応援をしてやりたいだけなんだ」
「応援……ん?! めぐみって……そうなの? イツキ……」
「こら、声がでかい」
リン、口と鼻を塞いだら息できないよ。
「……」
「あっ、ごめん。苦しかった?」
「大丈夫。でもリンの手って意外に大きいんだね」
あっ、また台詞間違えた……かな。
「女子の中では背が高い方だから、手も大きくなっちゃったの」
「どれ、合わせてみて……」
本当だ。僕より少しだけ小さいくらいだ。
「指が長いんだね。綺麗な手をしている」
「はっ、よしてよ。デカいって笑いなさいよ」
「なぜ、笑わなくちゃいけないの」
「なぜって……照れるでしょ」
「そっか」
僕は笑顔を浮かべながら、リンの手をスリスリしてみた。
「アンタ、詐欺の素質あるわね」
「詐欺?!」
僕は何者なんだろう……。
「リン……僕は何者?」
「悪者」
「ガーン!」
また僕はひとつ階段を踏み外した気分だった。
──────────
放課後、一年五組。
「今日はこのくらいにしよう」
「前回やってるから、二度目は要領よくできたな」
「やればやるだけ身につくこともわかったしな」
「お疲れ様。イツキ、めぐみを送っていって。リアム、僕と一緒にリンたちを送ろう」
「なあ、いつもお前らばっかじゃ悪いからさ、明日からは俺らにも送らせて」
「そうだね。順番決めてくれるとありがたいな」
「わかった」
「じゃ、みんなまたあしたね」
本当は彼らも女子と接点が欲しいんだろうな。もし仲良くなったら、部活の励みにもなるかもしれない。僕って案外お節介だったんだな。
「メイ、暗いから足元に気を付けてね」
「はい。あの……アオイくん、手を……」
「メイ、私が手を繋いであげるよ。アオは男だし、恥ずかしいかもだし」
「えっ、僕……」
「アオイ、一ノ瀬の提案に乗っかっとけ」
「はい」
「お前は俺とな」
僕は思わずリアムの顔を見上げた。真面目な顔をして僕の手を握っている。でも耳が真っ赤だ。
四人で帰っているのに、会話もなく、ただ黙々と歩いた。気がつくと、ふたりが住むマンションの前に着いていた。
「もう着いちゃった」
芽衣が残念そうに話す。
「そうだね。ふたりとも、また明日ね。Bye」
「バイバイ」
なんだろう。緊張感とも、気恥ずかしさともわからない、この感じ……どうしよう。
「アオイ、少し話していいか」
「いいけど、リアムの顔見るのに首が疲れちゃうから、おんぶしてくれる?」
「おんぶ……」
「Hup!」
「……」
「リアムの背中って広いし温かい」
「そうか」
「それで、話ってなぁに」
「俺さ、俺……男にしか興味がないんだ」
「それで」
「それでって……気持ち悪いとか思わないの?」
「なんで」
「お前……」
「男と女しかいないんだよ。男にしか興味がないのが、そんなにいけないことなの?」
「いけないわけじゃないけど、気持ち悪いって言われる」
「誰に」
「誰にって、クラスのヤツらとか……。中学の時もそうだった」
「そんなヤツらはこっちからバイバイしちゃいなよ」
「アオイ……」
「僕は、リアムのいいところいっぱい知っているし、リアムのこと好きだし、かっこいいと思ってるよ」
「俺も、アオイのそういう誰にでもフラットなところが好きだよ」
「それだけ?」
「それだけって……お前の笑顔も話し方も声も全部好きだよ」
「ありがと」
僕はリアムの背中で安心していた。その大きな背中が懐かしくて……懐かしいってなんだろう。
「もう学園の裏門だ。アオイ、降りて」
「うん。ありがとう」
「さっき、変なこと言って悪かったな」
「変なことなんて言ってないでしょ。本当のリアムを見せてくれただけ、だよね」
「ああ、そうだよ。アオイが好きだと本当のことを言った」
「僕も、リアムが好きだって、本当のことを言ったよ」
その先の言葉をふたりとも口にはしなかった。でも、僕を見つめるリアムの漆黒の瞳は、夜でもはっきりとわかるほど美しかった。
「リアムの瞳、僕好き」
リアムにハグをして、「Bye」と言葉を交わし、その日は別れた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
手を洗って、そのまま食卓に着くと、樹が怖い顔をして僕を見ている。
「アオイさ、俺ばっか立花送ってね?」
「明日からは、みんなで分担することになったから……ね」
「だけど、今日までなんで俺が立花を送ることになったのか、話してもらいたいんだよ、俺は」
「ご飯終わったら部屋でゆっくり話すから、ね」
「ね、じゃねえ」
樹が怒っている。でも、別に悪いことじゃないんだ。ちゃんと話せばわかってくれるよね。あっ?! 『ね』は僕の口癖だ。
夕食とお風呂を済ませ部屋に戻ると、すでに樹が僕のベッドに座っていた。
「ホレ、話して」
「めぐみのことかな」
「立花はさ、アオイの話しかしねえんだ」
「うそ!」
「時々『好きな食べ物』とか、『甘いもの好きか』とか、聞いてきたけどな。だけど、いきなりお前の子供の頃の写真を見せられた時はびっくりしたぞ」
ハハハ、それは照れ隠しかも……気がついてあげて。
「あとさ。朝礼の時、今日俺らがお前の後ろに座った時の話」
なんだろう。僕、なにか失敗したかな。
「お前の真後ろに、リアムが座ってたの、知ってたか」
「知ってた」
「リアムがお前の肩に手置いたの気づいた?」
見てたんだ……どうしよう。
「そうだった?」
「お前、リアムのこと、好きなのか」
「好きだよ」
「それは恋愛的な意味か?」
「わからないよ」
「わかんないって、お前」
「みんなのことが、好きなんだもん」
「それは、友達としてだよな」
「うん」
「お前の、誰にでもフラットなスタイル、時には勘違いするヤツがいるから、気をつけろよ。俺もそのひとりだけど……。まっ、俺からはそれだけ。寝るわ」
つっけんどんだけど、どこか優しい。樹、ごめんね。
もし、樹とめぐみが仲良くなったら嬉しい。でも、少しだけ寂しい。
いつか僕にも、一緒にいたいと思える人が現れたら、その時は……樹も『寂しい』って思ってくれるのかな。
