小さな物語

 城の灯りもほとんど消え、静寂に包まれる真夜中。
 騎士団長が自室で本を読んでいると、バルコニーから小さな物音が聞こえた。そっと窓を開け覗いてみると、隣の部屋の主が満天の星空を見上げている。
「リゼット様、お風邪を召されてしまいますよ」
 騎士団長は、王太女の華奢な肩にブランケットを掛けた。
「ありがとう。流れ星が見られないかなと思って」
「……ああ、流星群があるとか」
 ある星座の方角に流星群が現れそうだ、と学者たちが先日話していたのを思い出す。月もない今夜なら期待できそうだ。
 王太女が騎士団長の手を取った。 
「シラス君も一緒に見ましょう」
 騎士団長は、冷たい手を包み込む。
「……何か願い事が?」
「うふふ、半分はもう叶えられましたわ」
 シラス君と一緒に流れ星を見ること。
 楽しそうに話す王太女の大きな瞳には、星が溢れていた。
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