小さな物語

「ねぇ、シラス君。この世界が愛でいっぱいになったら、平和になるのかしら?」
 王太女の椅子に座ったまだ幼くも聡明な少女は歴史書を閉じ、傍にいる青年に問う。菫青石アイオライトのような大きな瞳は純粋な輝きを放っている。
「そうですね」
 孤高の騎士団長は、彫刻のように整った美貌に困ったような微笑を浮かべた。
「しかし、愛ゆえの憎しみや争いが生まれることもあります」
「……難しいのですわ。愛にも色々あるということ?」
 彼の言葉に、王太女は猫のような愛らしい口をきゅっと噤んだ。
「ええ。リゼット様にも、いずれ理解る時がきますよ」
 騎士団長は王太女の頭を優しく撫でる。
 
 ――貴女の平和を守る為なら、身命を賭して戦いましょう。それが僕の愛。
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