夢中の蝶は何を想う

 雲夢の外れのとある一画にこんな廟が建っていた。
 いつ誰に寄って建てられたかも定かではない。
 その上、祀られているのも魏無羨や江澄たちにはまったく聞き覚えのない神だった。
 仙楽太子。仙楽国の太子で、飛翔すること三回。
 武神、疫病神、そして。
「ガラクタの神……?」
 魏無羨は埃が被った文献を読み、自分の読み間違えかともう一度古文で書かれた木簡のそのただし書きに顔を近付けた。
 段々と格下げされているその文面は何度読み返しても間違いなく、横にいた藍忘機に手渡して見たが、そもそも彼は古語と呼ばれる神々の文字には無関心だった為、読むことが出来なかった。
 それにしても、この仙楽太子とやらは随分な扱いを受けている。
 神の像は仮面をつけ、手には一輪の花を持ち、柔和に笑う非常に御利益のありそうなお姿なのだが──。
 それでもガラクタの神様だ。
 ガラクタに神が宿ると言うのは、東瀛辺りでは持て囃されるだろうが、少なくても魏無羨の知る神の定義には当て嵌まらなかった。
 魏無羨は隣に立つ藍忘機の眉目秀麗な顔立ちを見つめ、今一度さっきの木簡を指し示す。
「なあ、藍湛。普通、神様ってのは人々から敬われて、崇拝されるからこうした廟が建つんだよな」
 極々当たり前のことを聞かれ、それでも生真面目な藍忘機はしっかりと頷いて答える。
 彼の性格ならまあ、そうなのだが、この日は何故か江澄と藍曦臣も同行していた。
 だから一連のやり取りを聞いていた江澄が、魏無羨から木簡を取り上げ、そしてやっぱり読めない古語に顔を顰め、またその隣に居合わせた藍曦臣の手に押し当てた。
「確かにそう書いてあるね。武神、疫病神、そしてガラクタの神だ」
 どうして彼ら二組の兄弟が行動を共にしているかと言うと。
 この地で花嫁が攫われる事件が起きた為、その調査に向かった魏無羨と藍忘機がついでにと蓮花塢にも立ち寄った。
 そしてたまたま偶然、本当に何の示しあわせもなしに藍曦臣も江澄の部屋に居合わせたのだ。
 二組の兄弟が、それぞれの恋人同士で鉢合わせるなんてどれだけ気まずいことか。
 藍曦臣、藍忘機の兄弟はまったく動じていなかったが、魏無羨と江澄は顔を引き攣らせながら、この偶然が引き起こしてくれた厄介事に顔を合わせたことを後悔していた。
「いやぁ、沢蕪君が江宗主の元を訪ねているところにたまたま俺たちも訪れるなんて本当、奇遇だね!」
 そう魏無羨はごまかしたが、こうした邂逅は既にこれで三回目である。
 いい加減江澄が開き直ってくれれば面倒もないのに、この場に及んでも江澄はまだ自分と藍曦臣の仲をどうにかごまかそうとしていた。

「大体だ。この件は雲夢で起きたのなら、何故、仙督自ら足を運ぶ前に、雲夢江氏の私に相談しない」
「仕方ないだろ。藍湛のところに直接相談が来たんだから。仙督が動くのに、どうして雲夢江氏の許可がいるんだ」
「ここは、私の土地だ!」
「それは違うな、江澄。土地は誰のものでもない。そして藍湛は世家を取り纏める仙督の地位にいる。お前たち世家の許可を取る必要もない」
 魏無羨と江澄で矢継ぎ早に互いの意見をぶつけ合っているが。
 そもそも何故、藍忘機がこの地に調査に赴いたかと言うと、魏無羨が言った通り、仙督の彼の元へ姑蘇の領民から花嫁が攫われたと直訴が来たからだ。
 嫁ぎ先は雲夢だが、花嫁は姑蘇の者である。
 姑蘇の民が真っ先に頼るのは当然藍氏で、しかも彼らの姑蘇藍氏から仙督が選ばれた。
 姑蘇の住民にしてみれば「やはり頼れるのは姑蘇藍氏のみ!」だし、無視された江澄としてみればこんな馬鹿にされた話はないと言うものだ。
「まあまあ、ともかくも花嫁の一行の足取りが途絶えた先にこの廟があったのは確かだ。まずはここを調べよう」
「藍宗主、何故、あなたが仕切るんだ。さっきも言ったように、ここは雲夢。江家の土地だ」
「もう、江澄のことは放っておこう。話が進まないよ」
 花嫁の籠がこの道を通ったのは、周辺の住民も目撃している。
 商家の公子に嫁ぐ娘の一行の華やかさを、領民たちは羨望の眼差しで見送っていた。
「花嫁はきっとすごく綺麗な娘さんでしょうね」
「姑蘇の人たちは皆、容貌に優れて、とても美しい方ばかりだと聞くわ。肌なんて雪のようなんですって」
 それは大袈裟だが、おそらくこの花嫁は若く、美しかったに違いない。
 裕福な家に嫁ぐ自分の幸せに胸をときめかせ、雲夢の片田舎のこの道を籠に揺られながら進んだ筈だ。
 しかし彼女が花婿の元へ到着することはなかった。
 籠の担ぎ手、花嫁に同行する侍女もろともに忽然と姿を消してしまったのである。
 そして花嫁の家族が雲深不知処に駆け込んで来た。

「江澄、最近、この辺りに盗賊が出たと言う訴えは?」
「そんなものはない」
 江澄は三毒聖手と揶揄される様に、千題の江楓眠と比較すれば、利己的で情に欠け、いささか拝金主義な傾向にある。
 しかしそれでも雲夢江氏の名を穢す真似は絶対しなかった。
 住民から訴えがあれば即座に解決にするし、多少強引だろうと、必ず雲夢の民のことは一番に守った。
 他の世家が江家の土地を自分の領地だと主張し始めれば、容赦なく追い出しにかかったし、紫電で滅多打ちにされる恐ろしさに怯え、雲夢で悪事を働こうとする愚か者も少なかった。
 魏無羨もそんな江澄の性格を知っているから、「だよな」とあっさり引き下がる。
「盗賊の一団がこの辺りを根城にしているのなら、江澄が真っ先に潰しに行く。では三十人はいたって話の花嫁の付き人たちはどこへ消えた?」
 何とも奇怪だ。
 その人数を捕らえて痕跡を消すのは不可能に近いし、殺したとしても彼らの遺体はどこにもない。
 あるのは花嫁が消えたと言う事実だけだ。
「その昔──」
 議論が行き詰まったのを見て、藍曦臣が静かに声を発した。
 とても耳に心地良い声で、江澄でなくてもずっと聞いていたい気持ちにさせられる。
「この辺りに花嫁を攫う鬼花婿が出たと言う伝承なら見たことがある」
「鬼花婿? 藍湛は知ってる?」
 魏無羨の問い掛けに藍忘機はぶんぶんと首を振る。
 彼は本当に音階術に纏わること以外の、古代の伝承にまったく関心がないのだ。
 そんなことを学ぶぐらいなら剣の腕を磨くし、藍氏の術を究めたい。
 其方の担当は姑蘇藍氏の看板を受け継ぐ兄の担当で、そして知的探究心に満ちた魏無羨の得意分野でもあった。
 雲深不知処での退屈な生活の間、魏無羨は藍忘機が居ない時は、度々、藍氏の禁書室に出入りしては古文書を読み解くことに熱中している。
 おかげで今では藍曦臣に並ぶ程、神々がまだ人間界を闊歩していた古代の文献に精通していた。
「しかし鬼花婿はどこぞの神に成敗されたとその古文書には書いてあった」
「昔話あるあるだね。何でも英雄がすっぱりさっぱり解決してくれる」
 魏無羨が巻き込まれた事件でもその神とやらが天から降臨して悪者を退治してくれれば良かったのにと皮肉に思う。
「鬼花婿の伝承と消えた花嫁、か」
 考えながら歩く魏無羨の行き先に何があるかを真っ先に気付いたのは藍忘機だった。
 この日、初めて彼が「魏嬰、足下に気を付けろ」と口を開いた。
「へ?」
 藍忘機の手が伸びきらないうちに、魏無羨の身体は突然宙に浮き、後ろへ引っ張られる様に落ちて行く。
「うわあ、ら、藍湛……っ!」
「魏嬰!」
 咄嗟に藍忘機も身を乗り出したが、あと少しで魏無羨の手が掴めると言うところで藍曦臣に止められる。
「離してください、兄上!」
「待ちなさい、まずは状況を……!」
 そうは言われても魏無羨の姿は既に穴の奥へ落ち続け、小さな影となっている。
 藍忘機は兄の手を振り払い、迷わずその穴に飛び込んだ。
「忘機!」
 幾ら呼び掛けても返事はない。
 それどころか二人が落ちて行った穴は見る見るうちに塞がり、普通の板間に戻ってしまった。
 後に残されたのは、藍曦臣と江澄のみ。
 顔を見合わせ、二人が落ちて行った辺りをしげしげと見つめたが板間がまた変化することはなく、廟は静けさに包まれたままだった。
「魏無羨!」
 先に動いたのは江澄の方だった。
 三毒を手に床へと屈み、仙力を込めて、剣を床に突き刺す。
 板を張っただけの床はすぐに破壊出来たが、覗いて見ても、ただの縁の下が見えるだけで、魏無羨らが落ちて行った穴はやはりどこにもなかった。
「二人はどこへ消えた?!」
「分からない。しかし、落ち着こう」
 これが落ち着いていられるだろうか。
 目の前で二人の修士が消えたのだ。
 しかも莫玄羽の身体に蘇った魏無羨は別として、藍忘機はもはや天下に並ぶ者なしと謳われる程の強者だ。
 その彼が為す術なく落ちて行った。
 途方に暮れ、天を仰ぐ江澄の横で、終始、冷静だった藍曦臣は裂氷を取り出し、それを口元に当て、静かな音色を奏でだした。
 こんなときに、と江澄は思いはしたが、姑蘇藍氏が得手とする音階術はその効果も多岐に富み、霊を祓い、鎮め、霊と会話し、そして人を操ることまでやってのける。
 江澄に解決策がないのなら、姑蘇の奥義に頼るしかない。
 藍曦臣の奏でる音色に惹かれたのか、開け放たれた扉からヒラヒラと銀色に輝く蝶が飛来した。
 透明で、美しく、羽ばたく度に銀色の鱗粉が周囲に宝石の欠片の様に散っていく。
 その蝶の軌跡を見つめ、江澄は声を出すのも忘れて見とれてしまった。
 蝶が仙楽太子の像に触れると、白い光が彼らを射し、不意に地面が震えて、廟の中の物がガタガタと動き出す。
 突然の突風に吹き飛ばされそうになった江澄を藍曦臣が受け止め、法力を放って、互いの身体を包み込む。
「沢蕪君、俺は大丈夫だ! そんなことより崩れる前に外へ」
「待ちたまえ、収まったようだ」
「あ?」
 確かに揺れは静まっていた。
 何事もなく、太子像は彼らの目の前に鎮座している。
 しかしその像の前に一人の男が立っていた。
 藍曦臣と江澄の二人は咄嗟にそれぞれの剣の柄に手を掛けたが、その男は───。
「あれ? またなんかやっちゃったかな?」
 何とも気の抜けた声と、そしてその場に脱力したくなる笑顔で江澄と藍曦臣にお辞儀をした。
「やあ、こんにちは」
「─────」
 気のせいだろうか。
 江澄は隣に居る姑蘇の宗主と目の前の男を見比べ、そしてまた何度も繰り返し、穴が開くほど見つめてしまった。
 緊張感の欠片もない、締まりがない、しかし美しい顔立ちの男は白装束も相俟って、江澄の恋人と良く似ている。
「ひょっとして、[[rb:姑蘇藍氏 > あなた方]]の親戚か?」
「いや、違うよ。こちらの法師は姑蘇藍氏の者ではないようだ」
「えっと、こそらんし、とは一体?」
 白い抹額、ならぬ白い布で髪を纏めているし。
 首と手首にも白い包帯を巻いている。
 何より着ている法服が真っ白で、そして姑蘇藍氏を思わせる端整で雅正な風貌をしていた。
 緊張感のない、緩んだ顔は戒律の厳しい藍氏とは相容れないが、それを言うなら江澄の恋人である藍曦臣も同様だ。
 つまりが姑蘇藍氏と言うより、藍曦臣に良く似ていた。
「沢蕪君、あなたの生き別れた兄弟では?」
「だから私の兄弟は忘機のみだよ。失礼だが、貴殿はどちらの宗派の方か?」
 藍曦臣の問いに、目の前の道士はにこりと笑って答える。
 出現の仕方は怪し過ぎたが、どうやら悪人ではなさそうだ。
「うん。私はどこの宗派にも属していない。何故なら、私はこの廟の神で」
「いや、我々の連れが消えたんだ。そしてお前がここに現れた」
「きみも隣の道友を見習って落ち着きたまえ。何やらここで不穏な事態が起きたようなので取り急ぎ駆け付けて見た。そしてきみたち二人は一体?」
 まずは自分が名乗れと怒鳴りたかったが怒りを堪えて江澄は自分が雲夢江氏の宗主で、隣にいるのが姑蘇藍氏の宗主だと伝えた。
「ゆんぼうのじゃんし……?」
「雲夢江氏だ! 名乗ったのだからお前も名を名乗れ!」
「私は謝憐[[rb:謝憐 > シエ・リェン]]。きみたちがお詣りしに来たここは私を祀った廟だ。仙楽太子だと知ってお詣りに来たのでは?」
「せ、仙楽太子だと?」
 武神、疫病神。ガラクタの神。
 何とも──、評判通りの疫病神だ。
「あんたの名を呟いた途端、早速、魏無羨と藍忘機が災難に見舞われた。どこへ隠した、さっさと二人をこの場に戻せ!」
「さて、道友。こちらのゆんぼうのじゃんしの方は口の悪さがなんかすごく見覚えがあると言うか。もしかして明光殿から来た神官の一人かな?」
「明光殿など知らん! 雲夢江氏だと言っただろう! 雲夢江氏、宗主の江晩吟だ!」
「そんなに怒鳴らなくてもちゃんと覚えたよ、江晩吟。して、其方の道友のお名前は?」
「私は道士ではありません。姑蘇藍氏、宗主の藍曦臣と申します」
「ふむ。なるほど。良く分かりました。藍曦臣殿に、江晩吟殿。では経緯を聞きましょう」
 経緯と言ってもここに入った途端、魏無羨が穴に落ち、藍忘機がそれを追って落ちて行ったことしか説明のしようがない。
「それとさっき、銀の蝶が」
「銀の? ひょっとしてそれは薄透明で、幻影の様な?」
「ああ、そうだ」
 その話を聞いた仙楽太子、謝憐はにこりと微笑むと、「それなら問題ない」とあっさり言った。
「きみたちのご友人はおそらく[[rb:花城 > ホワチョン]]の元へ行ったのでしょう。彼の元なら安心。とは言え、花城も絶の鬼、鬼の王であることは変わりない。ご友人らが彼の機嫌を損ねれば何をされるかは分かりませんので、今すぐに鬼界へ向かいましょう」
 花城やら、鬼界やら。
 聞き慣れぬ言葉に江澄と藍曦臣は顔を見合わせる。
「阿澄、ひとまずきみはここで待機を」
「何、言ってやがる」
「彼は鬼界へ赴くと言いました。どんな危険があるかも分からない。しかし私かきみのどちらかが行かねば彼に忘機と魏公子を見つけてもらうのは難しい。ですから私が彼と共に鬼界へ向かう。きみはここで待ちなさい」
「藍曦臣、あのな」
「大丈夫。私から離れなければきみたちに危険はないよ」
 でも謝憐は、疫病神で、そしてガラクタの神だ。
 江澄の冷たい視線を受けながら、謝憐は「あはは」と頬を指で搔いた。
「確かに私、仙楽太子はガラクタの神と言われていますけど、一応、神は神ですから。きみたちが二人だけで救出に向かうよりは多分、頼れるんじゃないかなと」
 この優男のどこにそんな頼れる力があるのかは疑問だが、江澄は絶対ついて行くと言い張って聞かなかった。
「そもそもだ。沢蕪君、どうして俺があなたに守られねばならない。あなたから俺はそんなに非力な男に見えるのか?」
「そうは言っていない。ただ私は大切なきみを危険な目に遭わせたくなくて」
「つまり雲夢江氏の私は、姑蘇藍氏のあなた方に黙って守られていろと言うのか? 雲夢江氏を馬鹿にしているんだな」
「あー、はは……、ねえ、喧嘩ならとりあえず後にして、きみたちのご友人を追った方が良くないか」
 謝憐が懸命に仲裁しているのに怒り心頭の江澄の耳にはまったく入らないし、ぷりぷり怒る江澄の対応に困っている藍曦臣の目にも彼の姿は入っていない。
 もう面倒だとばかり、「ちょっときみたちの法力を借りるよ」と勝手に拝借すると、謝憐はいつもの言葉、
「天官賜福、恐れるものなし!」
を唱える、彼らの間に真っ暗な空間を作り出した。
「うわああ!」
「阿澄、私の手を!」
 藍曦臣が江澄の手を掴み、共に落ちて行く。
 謝憐はそれを見ながらにっこりと微笑み、「久しぶりに[[rb:三郎 > サンラン]]に会うけど、彼は元気かな」などと場違いなのんびりさで呟いていた。

 一方、藍忘機は魏無羨を探して奇怪な森の中を歩いていた。
 ぽつりと彼の手に水滴が垂れ、藍忘機は雨かと空を見上げたが、彼を見下ろしていたのは亡者の澱んだ目だった。
 水滴と思っていたのは血の雫で、自分の肌についた血痕に眉を顰め、不快を露わにしたが後退する気は微塵もなかった。
 まだ魏無羨が見つかっていない。
 ここがそれ程危険な森ならば、尚更、彼を探し出し、彼の無事を確かめねばならない。
 後方で空気が動いた気配を感じ、藍忘機は咄嗟に避塵を抜いて、迫り来る刀剣を薙ぎ払った。
 見たことのない形をした鋭利な刀剣だ。
 曲線を描く銀の刀身はまるで宝玉の様に美しく、鋼でさえ、滑らかに切れそうな程に尖っている。
「当たるかと思ったのに、避けるとはなかなかすごいね」
「───」
 女か、と思ったが、意外にもすらりとした長身痩躯の男だった。
 右目は眼帯で覆われているが、それ以外の容姿は感嘆する程に美しい。
 藍忘機は避塵を構え、応戦する態勢を整えた。
 正直、臓腑が締め付けられる程、相手に恐怖や畏怖を感じたのはこれが初めてだった。
 人ならざる者───。
 藍忘機にもすぐにそれが分かった。
「これは、人の子にしては随分と美しい。それに法力にも優れている。お前は何者だ?」
「───」

 怯えて当然。
 鬼王、花城を畏れぬ者はこの世に存在しない。
 天の神官たちでさえ、恐怖を抱かぬ者はいないのだから、藍忘機が本能で危険を感じるのも当然だった。
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