02.風に、ひとひら
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「〝その辺の奴じゃ、この簪に触れることすらできない〟……だっけ?」
「っ!?」
突然、簪を髪から引き抜かれる感覚がした。解けた髪は、やけにゆっくりと肩に触れる。
────殺す。
全てが止まったような時の中、私は振り返りざまに息の根を止めるつもりで千本を放つ。しかし千本は木々に深く突き刺さるだけで、男には1つも当たらなかった。
「やめろ
「兄さんは黙ってなよ……。どうせ、またヘマしてそこから動けないんだろ?」
私の簪を握り締めるその男は生き残りの1人だろう。わざわざデイダラを振り切って来たんだ。
────こいつら…兄弟か。
とはいえ、デイダラと一戦交えたはずなのに傷が少な過ぎる。
よく似た顔立ちの弟だと思われる方はその語り口から分かるように、どうやら出来損ないの兄より遥かに厄介な存在のようだった。
「へぇ……これが〝大切な物〟ってやつか」
彼の手の中で私の簪が揺れる。
────許さない。
再び間髪入れずに放った千本は狙い通りそいつの両手首へ命中し、その汚らわしい手の中から簪が滑り落ちた。
嫌に澄んだ音が鼓膜の奥で響く。
その音を聞きながら、大きく踏み出した次の一歩で男を蹴り飛ばす。動けずにいる兄とやらの悲鳴に似た雑音も、今となってはくぐもって聞こえる。
助けを求めるように太陽光を反射する簪をそっと拾い上げ、髪を結い直した。
男がゆらり、と立ち上がる。その顔は気色の悪い笑みで満ちていた。
「S級犯罪者ともあろう者が、そのガラス1つでここまで感情的になるか……。愚かだな。もっと利口だと思ってたよ」
これでも一度溢れ出た感情を必死に押し止めていた私は、その言葉で何かがプツンと切れるのを感じた。同時に頭も真っ白になる。
手に握る針の冷たい感触。それを殺意を込め、震えるほど強く握り締めた。直後、私を嘲笑う男の左腕が肩から弾け飛ぶ。
「俺の女をナメんのも……大概にしろよ」
爆発音の後、威圧するような低い声が私の傍に降り立った。その心地良い音だけでふっと軽くなったような気がする。
そっと盗み見た彼の目には、怒りが色濃く滲んでいた。
「やっ、やめ…やめてくれ……!」
震える声で泣きじゃくりながら私達を止めに入ったのは、もう腰ほどまで地面に飲み込まれた、無様な姿の兄だった。彼は私達暁に向かって哀れにも懇願する。
たった1人の家族なのだ、殺さないでくれ……と。
弟の方はさっきまでの威勢はどこへやら、大量の血を吹き出す肩口を指が食い込むほどに押さえ、醜い声を出して震えている。
「見て分からない? もう助からないよ」
諦めろ、と言う代わりにため息を吐きながら私が零すと、彼は自分が治す、治せるからと言い出した。
どうやら彼は部隊の医療担当者だったらしい。
そこで私は交渉に出る。
「それなら────今、ここで話して。尾獣について、知ってること、全部」
