02.風に、ひとひら
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デイダラと談笑しながら、しばらく歩いただろうか。ふと、森に漂うのどかな雰囲気が一瞬だけ揺れた。
会話を続けながらそっとデイダラに目配せをすると、彼も何かに気が付いたらしく、頷く代わりにゆっくりと瞬きをする。
────1、2、3…4…5人ってとこか。
明らかにつけられている。
────下手な尾行だよね~……。ここまで殺気出してたら、嫌でも気づくでしょ…。
でもそれがわかってるってことは、逆にこっちから仕掛けられるってこと。今は気付いてないフリをしつつ、頃合いを見て先手を打とう。
デイダラも思っていることは同じなようで、いたって普通に会話を続けた。
「それにしてもすげぇよな、うん」
「なにが?」
「その簪だよ。ずっと付けてるのに、少しも傷つけたことねぇだろ?」
そう言いながらデイダラが私の簪に優しく触れる。ただそれだけなのに、じんわりと温かい感情が胸いっぱいに広がった。
『お前にそっくりだ、うん』
一緒に里を抜けてすぐの頃。たまたま立ち寄った小さな硝子工房で、大きなヒマワリが揺れる簪を手に、そう呟いていたデイダラを思い出す。
────傷つけるわけにはいかない。だって、大切な人が選んでくれた、唯一無二の大事な物なんだもん。
その想いがあったからきっと、私はここまで逞しくなれた。
「当ったり前じゃん! その辺の奴等じゃ、私の簪に傷をつけることはもちろん、触れることすらできないよ」
得意気に笑って肘で小突くと、デイダラは照れたように「さすがだな」と頬を掻きながら宙を仰ぎ見た。その視線の先に気配を感じる。
────近い……。
ついさっきまではずっと遠くで一定の距離を保ちながら追って来ていたのに、ここに来て急に間合いを詰めてきた。
この付近で私達の足止めをするように近づいて来たということは、おそらく奴等は今向かっている小国の連中だろう。
だとすれば都合が良い。
敵の気配は私達を取り囲むように移動している。
もう少し先に行けば、境である大きな渓谷が姿を現す。……きっと奴等も、そこで仕掛けるつもりなんだろう。
────先手を打つのは、私達。
背の高い木々が太陽の光を隠している涼しげな小道を進んで行くと、だんだんと視界が開け、大きな滝の音とともに渓谷がその全貌を見せた。
「バレバレだぜ……うん」
デイダラの低い呟きとともに近くで爆発音が鳴る。続けて2、3回音がしたあと、小さなうめき声と何かが地面に落ちるような音が聞こえた。
「うーん、さっすが♪」
「うるせぇよ」
「ちょ…っ」
私の方が得意気に胸を張るとデイダラが乱暴に頭を撫でてきた。そのせいでせっかく結んでいた髪も解けてしまう。
仕方なく笑いながらも髪を結い直していた、その時──。
突然、私の背後から起爆札付きのクナイが飛んできた。爆風と地面に押し倒される感覚だけが私の体を包み込む。
素早く体制を立て直したデイダラは、クナイが飛んできた方向へ数個の粘土を投げ飛ばす。最初よりも火力の高い爆風と音が、彼の怒りを物語っていた。
デイダラが庇ってくれたおかげで私は擦り傷だけで済んだけど…─。代わりに彼は、片腕を酷く損傷してしまった。
────逃がさない。
その傷を見た私もすぐに戦闘態勢に入り直し、敵の位置を探知する。目を閉じて地に手をつけると、複数の微弱な振動を感じた。
─────私達暁に盾突いたこと、後悔させてやるから。
生き残りは2人。大体の位置を把握したあと、私は迅速にその場所を共有した。
「ここから10時の方向と2時の方向に1人ずつ。私は左を、デイダラは右をお願い。時間、稼いでて。その間に情報引っ張り出しとくから」
デイダラは私の作戦に頷き、砂埃だけを残してその場から消える。
隠れながら遠距離攻撃しようという算段だろうが、どちらもさっきのデイダラの爆風によって多少のダメージを受けているからか、逃げ足もそう早くはない。
────いた。
やはり、あの小国の人間だ。
「ストップ」
そう言いながら背後を警戒して逃げ惑うそいつの正面に降り立つ。男は一瞬、驚いたような表情をしたけれど、すぐに術を繰り出そうと印を組み出した。
「あーっと、それ以上動かない方が身のためだよ? ──ほら、足元」
私はそんな彼に指差して忠告してやる。
「なんだ、これ…!?」
「私の得意忍術。動けば動くほど沈んでくから、生き埋めになりたくなければ、じっとしててね」
────まぁ、動かなくても生き埋めになるのは時間の問題だけど。
私のこの術、砂地獄は術者のチャクラ量によって土の形状が液体化する。チャクラが多ければ多いほど地は広範囲に海のようになり、逆に少なければ少ないほど、範囲は狭まりゆっくりと液体化していく。
つまり、この術はチャクラの量が少なく、尋問を専門とする私に打ってつけというわけだ。
このままゆっくり話を──そう、思った時。男が持っていたクナイを私めがけて複数個投げつけた。
そんな単純攻撃、当たるわけないのに。
「……本気?」
そもそも、がむしゃらになるなんて本来忍が陥っていい所作ではない。今から殺される恐怖か、はたまた焦りか…あるいはそれらの両方が彼を追い詰めているのだろうか。
木の幹や地面に力無く突き刺さるだけのクナイを見て、ただため息が出る。
────ほんと、圧倒的に不利なのになんで歯向かうんだろうね。
これまでにこういった奴らをごまんと見てきたけど、毎回毎回、ここまで抵抗する意味がわからない。
敵に捕まり、口を噤む時間が長く続けば続くほど、自分は痛い目を見るだけなのに。
─────どのみち死ぬのは変わらないけど、痛みや苦しみを味わう時間は少ない方がいいはずでしょ?
そんな私の疑問に答えるように男は叫んだ。
「お前ら暁が尾獣についての情報を嗅ぎ回っていることも、俺達の国を襲おうとしている事実も…既に伝達済みだ!」
「……そう」
つまり、私の読みは当たってたってことだ。やはりあの小国には、尾獣に関する情報がある。
派手な爆発音が近くなり、デイダラがもうすぐ合流できることを確かめるように宙を仰ぎながら、私はそいつに問う。
「あんたのお仲間はもう誰も生存してないかもしれないけど……それでも、情報を黙ってる? 今話せば苦痛はないんだよ?」
「俺は何も話さない…… 話すつもりもない。国を守るためならな!」
そう、こういう奴に限って簡単に話す。噛みつこうとする負け犬のように荒々しく話す彼に一歩近づき、そのプライドをへし折るつもりで呟いた。
「国のため、ね。あんた1人がそうやって口を閉ざすだけで、情報が、国が…─守りきれると思う?」
私の問いに、男は苦い顔をする。
────何も言い返せないよね。これもまた、〝事実〟だもん。
忍が皆、こいつみたいに頑なならいいけど、この世界は薄情な奴の方が多い。誰だって自分が一番かわいいんだから。
「それに、あの国ってあんたが命賭けるほど価値のあるとこ? よく考えてみたら?」
「それ、は……」
────よし、あと一押しってとこかな。
じわじわと敵の精神が崩れていく音がする。だんだんと俯き始めた男に手応えを感じ始めた、その時…─。
