02.宵
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少し乱暴に思える彼の手に引かれて辿り着いたのは、人気のない裏庭のような場所だった。
「…あ~……本当は…言うつもりなかったんだけどよ……」
握っていた手をそっと離し、頭を掻きながら言いづらそうに振り向いたシカマル。そんな歯切れの悪い彼にだんだんと腹が立ち、私は感情をぶつけるように小さく言い放った。
「…何?」
彼に当たるなんてお門違いなのは重々承知している。けれど復讐の毒に侵されている今の私には、他者を気にかける少しの余裕もなかった。
「確かに、雨辰の野郎は逃げた。〝一度〟な」
「……〝一度〟?」
その含みのある言い方に胸がざわつく。
「結論から言うが、騒ぐなよ」
シカマルはため息交じりにそう呟くと一呼吸置いてから口を開いた。
「雨辰は俺が殺した」
「はっ────!?」
「…っと……騒ぐなっつってんだろ」
突如語られた耳を疑う真実。叫ぶなと言われていても予想外の発言に驚きを隠せず、つい声が漏れてしまう。シカマルは私の反応が予想通りであったかのように、素早く口元に手を当て、黙らせた。
肌に感じるその手の温もりに、心臓が跳ねる。
────なん、で……。
私は怒るどころか、何も言えずにただ彼を見上げることしかできない。シカマルはそっと手を離すとそんな私に順を追って全てを説明してくれる。
雨辰は私との揉み合いの後、そのまま里抜けとなり、すぐに指名手配されたこと。
他の仲間が海月の遺体と私を回収してくれたこと。
そして一番衝撃的だったのは雨辰の犯行が計画的なものだったことだ。
彼は何人かの仲間と、スパイとして木ノ葉に忍び込んでいたらしい。
────まさかあの大人しそうなイサナも雨辰の仲間だったなんて……。
奴らの目的は木ノ葉の新芽を摘み取ること。つまり、著しく能力や地位を高めている若者を秘密裏に消し、木ノ葉の先進を食い止めることだったのだ。
────なんで、気づけなかったんだろう。雨辰やイサナの狙いは最初から海月だったのに。
「里ですら気付くのに時間がかかったことだ。お前が気に病む必要ねぇよ」
シカマルは話の中で何度も私にそう言ってくれた。口には出さないけれど私が自分を責めているだろうからって。
彼の優しさが痛い。
人前で、特にこの人の前で泣くのが苦手な私は必死に感情を抑え、一番気になっていたことを口にする。
「あいつを殺したのは…任務で? それとも────」
────もし、もしも……。彼みたいな人でも私情だけであいつを手にかけていたとしたら。……ううん、シカマルに限ってそんなこと…あるわけない。
そうはわかっていても、これだけははっきりさせておきたかった。
「安心しろ。任務で、だ」
シカマルからのその一言で安堵の息が漏れる。彼までも私みたいに独断で行動していたと知ったら、また罪悪感に苛まれてしまいそうだった。
事の発端は私だ。私が最初から上手く他の皆と連携が取れていれば、相手が予定通り海月を襲ったとしてもすぐ全員で対処できただろう。
……海月も、死なずに済んだはずだ。
「……全部、隠し通すつもりだったんだけどよ」
シカマルが沈んだ声で呟く。なんで、と言いたいのが顔に出ていたのか、彼は私を見て少し笑ってから「諦めると思って」と空を仰ぎ見た。
あのまま真実を告げていれば、私がもっと塞ぎ込んでしまうかもしれないと思ったそうだ。それならいっそ、嘘をついて諦めてもらおうと。
けれど私は諦めるどころか、体がこんな状態でもあいつを殺しに行こうとするものだから、慌てて全てを話すことにしたんだそうだ。
シカマルが次に話してくれたのは任務のことだった。本当はそこまで話してはいけないそうだが、もうカタがついたことだし、支障はないだろうと。
任務内容は単純だった。
指名手配中の雨辰とイサナを捕獲するか、やむを得ない場合に限り、遺体を持ち帰ること。
スパイの情報が明るみに出たことで、シカマルもまた奴らの標的となっていたと推測されていた。
そして彼は囮役を買って出る形で小隊を率いて雨辰に接近したという。
シカマルはここまでの出来事を一通り話すと「悪かった」の一言だけを置いて立ち去ってしまった。
────なんで……なんで。
疑問符ばかりが浮かぶ中、頬に伝う涙をそよ風だけが優しく攫っていった。
