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しっぽや(No.85~101)

<side TAKESI>

今日は先輩達が揃ってバイトに出勤できる日だ。
『受験終わるまでタケぽんの出勤日増えちゃって悪いから、たまには俺達2人で仕事するよ』
先輩達はそう言ってくれるが、俺は別にしっぽやで働くのは嫌じゃない。
むしろひろせに会えるから、夏休みだって毎日バイトに行っても良いくらいなのだ。
先輩達と3人で仕事するのも楽しいし、しっぽやを手伝えることは誇らしかった。


「流石にこの年になると、夏休みに家族で出かけるより友達と遊んでたいよな
 去年はカシスが来て旅行どこじゃなかったし、今年は俺が受験だから親父が張り切って旅行の計画を立てないから気が楽だよ
 受験終わるまでバイト減らしたらどうか、ってブツブツ言うのは鬱陶しいけど」
荒木先輩がパソコンでしつけ教室のチラシを作成しながらそう言った。
「荒木の親父さん、相変わらず子離れできないんだなー
 良い親父さんだと思うけど、頼りにはならないって言うか子供っぽいって言うか
 だいたい、あの顔が詐欺だもん、どう見ても大学生」
日野先輩が古い報告書を確認しながらクスクス笑う。
俺は日野先輩から破棄してもいい報告書を受け取りながら
「荒木先輩のお父さんって、若作りなんですか?」
そう聞いてみる。
「いや、本人は若く見られるの不本意みたいで、この暑い中きっちり背広で出勤してんだけどさ
 勤続20年近いのに、張り切るフレッシュサラリーマンにしか見えないんだ」
「言えてる!取引先の人に『これだからゆとり世代は』とか言われそう」
「それ、こないだ言われたってスゲー怒ってた」
爆笑する2人を見ながら
『その話…思いっきり先輩達にも当てはまりそうです』
俺は心の中で仏の微笑を浮かべていた。

「タケぽん、その書類破棄したら、これ100均でコピーしてきて
 あそこならカラーコピー安いもんな
 夏休みバージョンのチラシなんで、取りあえず100枚でいいや」
荒木先輩が出来上がったばかりのチラシを手渡してくる。
「ついでにコンビニで牛乳買ってきて
 プルーチェ作るから、調製乳じゃないやつな」
日野先輩から事務所の会計用財布を渡された。
「で、その後はもう上がっていいよ」
黒谷が日野先輩の言葉の続きのように自然にそう言った。
「え?」
驚く俺に
「ひろせが戻ってきたら、彼も上がってもらうから
 2人でランチがてらデートでもしてきなよ
 ちょっと暑い時間だけどさ、頑張ってるタケぽんにご褒美
 ここのとこ依頼少ないし、明日は2人とも夏休みの有給扱いにするから休んで良いよ
 急だけど、お泊まりしちゃったら?」
黒谷が俺にウインクをしてきた。
2人の先輩は悪戯っぽい顔で笑っている。
どうやら事前に決めていたことらしい。

「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は顔がニヤケてしまう。
「ほら、あと少し頑張ってこい」
先輩達に促され、俺は張り切ってしっぽや事務所を後にする。
心は早くも、ひろせとどこに行こうか、ということに飛んでいた


チラシをコピーしてコンビニでの買い物を済ませると、俺は一目散に事務所に帰っていった。
子猫を保護したひろせも事務所に戻ってきていて、俺の顔を見ると華やかな笑顔をみせた。
「今日はもう、上がって良いんですって
 それに、明日は夏休みだって」
期待するような瞳を向けてくるひろせに
「うん、これからデートしよ!
 外は暑いけど建物の中なら涼しいよ
 前にショッピングモール行きたいって言ってたよね
 足延ばして、ランチに行ってみない?」
俺はお使いをしながら考えていた事を言ってみる。
「はい!」
頷くひろせの笑顔は、本当に可愛かった。



「お疲れさまでした、お先に失礼します」
ラフな服装に着替えたひろせと事務所を出ると、午後の真夏の日差しが襲ってくる。
「暑ー、ひろせってこんな暑い中、外で捜索してるんだね
 本当にお疲れさま」
俺は改めて仕事中のひろせの大変さに気が付いた。
「なるべく移動は日陰を選んでいるのですが、この時間はお日様が高いんですよ」
ひろせは苦笑していた。
「ショッピングモールで、何か熱中症予防グッズみたいなの探してみようか
 首を冷やせるタオルとかさ」
俺の提案に
「飼い主とのお買い物、嬉しいな
 これで、羽生や白久に買い物自慢が出来ます」
ひろせは幸せそうな笑顔をみせる。

「ランチはどうしようか
 あそこのショッピングモールって食べ放題の店が色々あるけど、そーゆー店はデザートが似たり寄ったりなんだよね
 せっかくのひろせとデートだから、美味しいデザート食べたいな
 そうだ、メイン料理は軽いものばっかだけど、ワッフルの美味しいお店があったっけ
 焼きたてのワッフルと紅茶のお店なんだ」
「美味しそう、行ってみたいです
 美味しいお店を研究して、僕も色々作れるようになりたい!」
ひろせは俺を見て顔を輝かせた。

こうして俺達の夏休みデートが始まるのであった。
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