漆黒の王女〈後編〉

57/72ページ

前へ 次へ


 窓の外を見ると、さっきは月明かりが差していたのにすっかり暗くなっていた。

 厚く黒い雲が空を覆い、風が唸り、ゴロゴロと遠くで音も鳴っている。

 吹き込んできたその風は湿気を含んでいて、ガラスの屑を飛ばして私達の肌を傷つけた。

「うぬぅっ…」

 ゼノス兄弟がしきりに目を擦る、私とサザンを締め付ける力がふと抜けた。

 その隙を狙って、私達は脱出を試みた。

「逃すか…っ」

 彼らは目を細めながら体勢を整える。

「…っ、げほっ…」

 喉を強く押さえられているサザンが、何か言おうとしていた。

 ゼノスはそれを見て嫌らしく笑い、

「くっくっ…冥土の土産に何か言い遺すか…?」

 さも同情の姿勢を見せつけて、サザンの口元に耳を寄せた。

 それにより、杖がサザンの喉から少し浮き上がり、サザンは潰れた声を少しだけ出せた。





「…あ、あんた達が、城の運び屋なんだろう…?
 森の…おばあ、さん…
 …心配してる…
 …伝えて、くれっ…てさ…」





「───」

 サザンのこの言葉に一体どれだけの力があるというのだろう、ゼノス兄弟が明らかに動揺を見せたのだ。

 そして、まるで彼らの今の心境を例えるように、ピシャアン。

 雷光が降り注ぎ、ズドンと衝撃が走った。

 こんなに大きな城が地震の様に揺れて、バリバリと空の割れる音が耳をつんざく。

 その拍子に、ゼノス兄弟は私達の身を離した。

 これが絶好の瞬間で、見逃してはいけない、生と死の分岐点だった。

 私とサザンは同時に思ったに違いない。

 今、やらなくては…!





「──ぎゃああぁ!!」





 ゼノス兄弟の悲鳴が、吹き込む風と共に、この書斎の空間に渦巻いた。

 私はサザンのボウガンの弓を拾い上げてガルバの脳天に強打し、サザンは握っていた矢の束をゼノスの太ももに突き刺したのだ。





57/72ページ
スキ