漆黒の王女〈後編〉
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□月○日
サザンから手紙が届いた。
私が留守の間に、猟師の親方に弟子入りして
猟の特訓中だって。
あの小さな弟が一人前になる為に頑張っている、
と考えたら、とても誇らしい気持ちになった。
横でシーナも一緒に見ていて、
自分にもきょうだいがいたらな、と呟いていた。
いつかシーナを私の村に連れていって、
サザンと逢わせてみたい。
叶えられるのなら。
□月X日
次期城主となるシーナは王族学を修学中。
城主さまの話では、シーナが20歳になったら
正式に後継させるとの事だった。
何をそんなに急いているのか。
城主さまだって退くにはまだまだお若いと
思うのに。
だけど城主さまは言った。
誰にも、妻にも娘にも言っていないが、
私にも何か病魔みたいなものが蝕んでいるのだと…
もしもの時は妻と娘の事を頼むぞ。
城主さまと私の秘密の約束が生まれた。
あともう1年というのも怪しくなってきた…
このままずっとお城に居る事になるのだろうか。
いつになれば家に帰れるんだろう…
□月△日
謁見の間に続く階段の脇の壁から、
何となくすきま風を感じてその辺を触ってみると、
壁が回転して向こうへ閉じ込められた。
パニックになって壁をドンドン叩いたら、
誰? とシーナの声が聞こえた。
私だと分かると、シーナは私に後ろに
下がるように言って、
シーナも壁を回転させてこちら側にやって来た。
「大丈夫よザザ、ここは部屋よ。
私の秘密の部屋」
シーナの話によると、このお城には隠された
抜け道が沢山あって、ここもその内のひとつ。
「もうずいぶん長いこと使っていないの。
体が大きくなって抜け道を通れなくなったから。
抜けた先にね、使っていたグライダーがあるの。
ここからそこにはもう行けないから…
ザザ、よかったらこの部屋を好きに使って?
誰にも内緒よ」
グライダーって何だろうと思いながら、
私はシーナの好意に甘えることにした。
他の使用人達と大部屋での生活だったから、
思いもよらず個人の空間を手に入れて嬉しかった。
…