漆黒の王女〈後編〉

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 隠し扉だったのか?

 転がった僕はもろに頬を床に擦り付けて、でも痛くはなかった。石畳ではなく絨毯の上だった。

 目が少し暗闇に慣れてきて、僕はゆっくり身体を起こした。

 窓の無い小さな部屋…輪郭でしか分からないけれど、小さなテーブルと書棚がある。

 テーブルの上にランプがあるようなので、手探りでスイッチを入れた。

 パッと柔らかく灯って、テーブル周りだけ明るくなった。

 テーブルにはランプの他にノートが一冊、閉じて置かれていた。

 それから、明かりの範囲からちょっと外れて置いてある書棚に目を移した途端…僕は息が止まるかと思った。



 ちょうど僕の目線の高さに飾られている…



 僕の家にあるのと同じ、僕とねえさんが並んで写っている写真と…



 画家にでも描かせたのか、椅子に腰掛けている美しい黒髪の女性の肩に手を置いて、寄り添うように立つねえさんの絵…!



 思わず書棚の縁を掴んで、至近距離でそれらを見つめる。

 この黒髪の人は、シーナだ。髪も長くて少し幼い顔立ちだけど、間違いない。

 やっぱりねえさんとシーナには深い関わりがあった。

 そうだ、ノート。

 僕は振り返り、テーブルの上のノートに手を伸ばして、ページをめくった。





   ○月X日

 お城での初勤務の日。
 とても緊張したが、優しい人たちばかりで
 安心した。
 城主さまも穏やかな雰囲気。
 色々覚えることがあって大変だけれど、
 たったのふた月。がんばろう。





 …ああ…!

 視界が涙でにじんだのは

 手紙では知り得なかった姉のザザの痕跡を

 不意に見つけちゃったからだ





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