漆黒の王女〈後編〉
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あの人達は誰? 火事で焼かれてしまった人達? 何故、あそこにまとめて放り込まれているんだろう。
他にも色々考えようとしたけど、いつまでも吐き気がおさまらないので、見てしまったおぞましい光景を、必死に頭から追い払った。
ようやく落ち着いてきて、僕はふらふらと立ち上がって、お城の門へと続く階段を登った。
お城に来れば謎が解けるなんて、甘い考えを持つんじゃなかったかな…
余計に訳が分からなくなってるじゃないか…
門の前に辿り着いて、僕はひとつ深く呼吸をした。
ここまで…誰にも、生きている人に出くわさなかった。
シーナはどこ? ねえさんは? おばあさんの息子たちは?
まさか、あの山の中に、と一瞬掠めて、慌てて打ち消した。
何にせよ、お城の中を確かめなくては。
僕の力だけでは到底開けられそうもない大きな大きな門だったけど、幸いにも少しだけ開かれていた。
僕はその隙間に身体を滑らせた。
お城の中は灰暗く、地下道よりは明るさを拾えたけど、厚い雲に覆われているのに加えて、もうすぐ陽が落ちる時刻だった。じきに視界は悪くなるだろう。
外壁も酷かったけど、中は更に焼けただれていた。
すうと息を吸い込むと、細かい煤が口に入って、げほげほと咳き込んだ。
僕は鼻と口を片手で覆いながら、床に転がっている破片やらに躓きながら奥へ進む。
なんて静かなんだろう。
静か過ぎて、耳が痛い、なんて思ったその時だった。
(…いやあーあーぁー…っ!!)
「! シーナ!」
シーナの声、どこ? どこからだ?
手当たり次第に近くの部屋の扉を次々と開けたけど、誰もいない。
奥まで来て、上に上がる階段を見つけた。シーナは上か?
階段を登ろうと駆け出した時、また何かに躓いてよろめいて、横の壁に肩からぶつかった。
ぐらっ。
「えっ??
…わあぁーー!!」
壁が縦に回転して、僕は壁の向こうの真っ暗な空間にぐるんと放り込まれた。
ぱたり。
壁は元に戻り、わずかな光さえも閉ざした。
…