漆黒の王女〈後編〉

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「ひひひひひっ…あれは、見物だったなぁゼノス兄ぃ。

【アナタ、アナタ、ユルシテ。
 ワタクシハタダタダ、
 アナタノオソバニイタカッタノ。
 アイスルユエダッタノ】

【ウルサイダマレ、ハジサラシメ。
 キサマモアノミドリノアカゴノモトヘ、
 ワタシガツレテイッテヤル】

 …ひひひひひっ!」

 ガルバのふざけた口真似。ゼノスの口を歪ませながらの笑み。

 耳を塞ぎたい、目を塞ぎたい、両手の自由がないから叶わず、顔を背けるしかなかった。

 ゼノスはなおも抑揚なく続ける。

「…王は王妃の首を…私達は最後まで見届ける事は出来なかったが…
 数日後、王妃が亡くなったと知らせが回り…王は悲しみのあまり衰弱して数年後に命を終えたと聞いた…
 …裏切りに気が触れて自分を保てなくなったのだろう、それを知っているのは私達兄弟だけ…
 夫婦もろとも、私を捨てた罰が下ったのだ…くっくっ。

 こうしてひとり残されたダルフォンが若き城主となって、十五年ほど時が過ぎた…
 その間、城とのやりとりはガルバに一任して、私は森を出て世界を回った…
 世界は広かった…私のような同色人種が沢山いた…
 とても穏やかに時は流れた…私の憎しみも次第に小さくなった…

 ところがある日、ガルバから知らせが来た…
 母の目の具合が大分悪くなり、加えてある事情で城内での仕事を頼まれてくれないかと言われ、母を放っておけないしどうしたらいいだろうかと。
 とにかく私は詳しく話を聞こうと、一度森へ帰ることにした…
 すると話はこうだった…
 ずっと独り身だったダルフォンが妻を迎え、同時にお腹に新しい命が…
 その為、城の人手を増やしたいと人員募集をかけているというのだ…
 その声がガルバにも掛かったのだが、盲目寸前の母を置いて城に籠ることは出来ない…
 城中に雇われた者は、許しがない限り勝手に抜け出しなど出来ないのだ…そして許しがおりる事もほぼほぼ無い…
 それはユリシーナ、お前もよく知っているはずだな…?」

 ゼノスの問いかけに、私は重々しく顔を上げた。

 そうだ、漆黒城の存在を世界から隠す為の古いしきたり。

 漆黒の一族含め城の中を知った者は、生涯を懸けて城の為に尽くす、城を置いて旅立つなどもっての他だと…

 私はそう聞かされ育ったし、ザザも…時々家に帰りたいと零す度誰かにそう諭されていた。





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