漆黒の王女〈後編〉
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「ほう…? 記憶を失ったと聞いたが、取り戻したか?
憎きレグルス家の血と黒を真っ当に受け継いだ娘。ユリシーナ・レグルス」
私の言葉を聞いて、彼は歪んだ笑みを向けながらそう言った。
さらわれる前にも聞いたその名前は、確かに私の名であることを思い出した。
頭痛が少し引いて、薬の効力も切れてきたか意識が大分クリアになってきた。
それと同時に、封じられていた記憶が湧き水みたいに渾々と溢れる。
ここは私が住んでいたお城…この部屋は父が執務室の休憩場として設けていた隣の書斎。
そして私の目の前にいるこの人は、私の父…じゃない。違った。
父によく似ているが、父より若く見え、髪と瞳の色は…深い緑だった。
「ゼノス兄ぃよ、こいつ、どうする? ひひひひひ」
今まで気付かなかった、私をさらった大男が部屋の隅でまた嫌な笑い方をして、腕組みで壁に寄り掛かりながら私を見ていた。
「まぁ待てガルバ。
本来ならこうして面と向かって話す事など無かったはず。
どうしてこうなったか…そこの黒い王女と話を照らし合わせてみようじゃないか」
ゼノスと呼ばれた、父によく似ている男は私に一瞥して、書斎のデスクに腰を沈めた。
「さてユリシーナ。
私は一刻も早くお前を消してしまいたい。
しまいたいが…お前は訳が分からないだろう。
あの時に消したはずの命がまだこうして在る、それに慈悲をかけてやろう。
お前の全ての質問に答える時間をくれてやる」
ゼノスはとても冷たい目をしていた。慈悲なんて言ってるがぬくもりは一切感じない。
「あなたは一体…
パパと同じ顔をしてる、あなたは一体何者…?」
優しい父と正反対の雰囲気を背負っているこの男に吐き気がして、苦々しく問う。
すると、ゼノスの口から信じられないような話が出たのだ──
「ふ…っ。同じ顔か…?
同じ顔…
そりゃそうだろう…
私とお前の父ダルフォンは…
双子で生まれてきた…
しかしレグルス家は…
黒を受け継いだダルフォンを城に残し…
──緑の異端児の私を捨てたのさ」
…