漆黒の王女〈前編〉
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「…という事らしいけど…シーナ?」
おじさんが肩越しにシーナを見る。
おじさんの視線にハッとなったシーナは、少しの間だけ目を宙へさまよわせたけれど、
「あ…ハイ…えぇと…手紙ぐらいなら、全然構わないですけど」
とはっきり言った。
「えっ、シーナ、手紙のやりとりするの? 全然知らない人なのに? へんなの」
僕がやたらでかい声を出したので、通信機の向こうでアルテが『ナニ変な茶々入れてんのよ!』と叫んだ。
おばさんがそれを制して、柔らかくシーナに問う。
『サザンの言う通りよ、誰も、私達も彼の事を詳しく知らない。なのに紹介なんて…
断っていいのよ、シーナちゃん』
また後ろでアルテが、『相手の人はねぇ、背が高くて…』と言いかけて、『こらアルテ! 余計な事言わない!』とおばさんに怒られていた。
するとシーナはふっと笑って、こんな事を言った。
「いいえ、知らないから、まずは手紙で伝え合えれば。
相手の方も私の事何にも知らないでしょう? それは不公平だもの。
アルテももう何も言わないで。本人に全部教えてもらう。
サザンの家に送って下さるよう伝えて下さい。いいでしょう? サザン」
シーナにそう言われたらダメなんて言えないし。
「別にいいけど」と言って、僕はテントを出た。
なんか、ワクワクしてるようなシーナにモヤモヤする。グライダーの完成よりも? くそぅ。
まだおばさんと話を続けるシーナの声を徐々にフェードアウトさせながら、僕はグライダーの傍で図鑑を読み始めた。
それからしばらくしておじさんがテントから出てきて、助手の人達と発射台作りの続きを再開した。
おばさんとの通信終わったの? と聞くと、
「シーナにすっかり取られちゃった。かみさんとアルテとで盛り上がってる。
僕の帰宅のことなんか、もう重要じゃないみたいだ」
と苦笑いをした。
翌日にアストラおじさんが帰って、それと入れ替えに約束の手紙がうちに来た。
…