漆黒の王女〈前編〉

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「はあぁ…こわかった」

 シーナは地に足を着けた途端、へなへなと座り込んでしまった。

「サザンはよく平気だね? 私はだめ、まだ震えが止まらない」

 自分を抱きしめるように縮こまるシーナの背中をさすってやる。

 たった数分だったけど、空を滑る間のシーナはプロの操縦士みたいに引き締まった表情をしていた。

 記憶を取り戻した? とさえ思わせたのに。そうじゃないみたいだった。

「お疲れシーナ、無理言ってすまなかったね。
 …もう飛ぶ気はないかい? 記憶はなくても、身体は覚えてるみたいだったね。
 回数を重ねれば…もっと上手になるのはもちろん、記憶も蘇るかも」

 おじさんの言葉にしばらく考え込んだシーナは…首を横に振った。

「いいえ…素性を知りたいのはやまやまだけど…自分でもこんなにこわいなんて思わなくて。
 グライダーは、サザンが乗るのを見るだけにします」

「そう」

 おじさんは残念そうに呻いた。そして僕の方を向いて、

「じゃあサザンがこれを受け継ぐんだね。がんばってサザン。
 沢山練習すれば、発射台でひとりでも飛べるようになれるし、シーナとおんなじくらい上手になるはず」

 あ、やっぱりおじさんも僕よりシーナの方が上手って思ってる(苦笑)

 なんか悔しくて、絶対上達してやると思いながらシーナを見ると、シーナは一瞬びっくりした顔をして、でもすぐに優しい微笑みを携えて、

「サザンが使ってくれた方が、グライダーも喜ぶと思うよ」

 と言った。





「さあ、グライダーも修理完了したし、発射台も明日には完成できそうだし、もうすぐ帰れるって連絡入れなきゃ」

 そう言っておじさんはテントの中へ入っていった。と思ったら、入口の隙間から顔を出して「来てごらん」と僕達を呼び寄せた。

 僕とシーナは顔を見合わせて、おずおずとテントの中へ入る。

 おじさんが何か機械をいじっていて、ガーとかピーとか音を言わせていた。

「あっ。おじさん、これってもしかして」

 僕はある事を思い出して声を上げる。

 おじさんはニヤッと笑って振り返った。

「アルテが話したかい? そう、通信機さ」





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