漆黒の王女〈前編〉

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 研究所兼自宅のアストラ邸に入ると、アルテの予想通りおかみさんが迎えに来ていて、ベスタおばさまとお茶を飲みながら私達を待ってくれていた。

「おかえり。二人ともお疲れさま。アルテも手伝ってくれたんだって? すまなかったねぇ、ありがとうよ」

 おかみさんに労って貰ってアルテは満足そうに笑った。

「さぁ、シーナとサザンが戻ってきたから、暗くならない内においとましないと。すぐ出れるかい?」

 私とサザンは頷いたけど、アルテが「あっ忘れてた! ちょっと待ってて」と言って、どこか部屋へ行ってしまった。

 その間に、ショールをずっと借りっぱなしだったのを思い出して、

「おばさまこれ、ありがとうございました」

 とショールを取って畳んでベスタおばさまに差し出した。

「いいのよシーナちゃん。もし嫌でなければ、貰ってくれる?
 シーナちゃんにとても似合ってるから、使ってくれるなら嬉しい」

 おばさまに優しく微笑まれて、私はショールを頂くことにした。

「ほらサザン、これ、渡してあげてってパパに頼まれてたのよ。貸出無期限だって。
 あんたこんなの読むの?」

 アルテが戻ってきて、首を傾げながら渡してきたのは分厚い本。【世界の乗り物図鑑】と書かれていた。



 アルテとおばさまに見送られてアストラ邸を出て、町の入口に停めていたおかみさんの馬車に乗り込んだ。

 御者席に私とおかみさんが並んで座って、その後ろの荷台にサザンがあぐらをかきながら図鑑をパラパラと捲る。

「お祭り、楽しかったかい?」

「うん、とっても」

「そうかい、よかった。本当なら最後までいさせてやりたかったけどねぇ。うちの人がヘソ曲げるから(笑) 早く帰ってやんないと」

「親方が? ふふ、じゃあ早く帰らなきゃ(笑)」

 私とおかみさんがそんな会話をしていると、サザンが「あ!」と声を上げた。

「シーナ、見て見て」

 サザンが広げているページを覗くと、色は違うけれど私のグライダーと同じ乗り物が載っていた。

「あのグライダー、直ったらこんな感じになるんだね…楽しみだなぁ」

 鳥みたいに空中を滑る様子を描いた図を見て、サザンは溜め息をついた。



 馬車に揺られて、森へ入る直前に私はルニアの町を振り返った。

 楽しかったな。また来る事があるだろうか。

(古い呪いだ)

 占いのおばあさんの言葉を思い出して、不意に額の生え際に手をやった。

 こんな所は滅多に目にいかない、今まで気付いていなかった。本当にあるの? 後で鏡で見てみよう。

「どうしたんだいシーナ、頭でも痛むかい?」

「ううん…ちょっと痒くなっただけ」

 おばあさんの予言めいた言葉を、おかみさんはもちろん、サザンにも言えなかった。

 変な心配をかけたくなかった。





《Continued to another point of view…》






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