夜間飛行

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 サザンはというと、海を渡ると決意した頃はまだ年端が行かず、全てが整うまで色んな事を頑張ってきた。

 今まで通り親方に付いて猟師業を、それに加えてこの地域の集配人、おじさまの研究を時々手伝ったり。

 もちろん私達の事も変わらず気に掛けていて、暇さえあれば漆黒城を訪れてくれていた。

 酷い悪阻で辛かった時も、あの人が不在の中、本当にサザンにはお世話になった。(思えば出逢った時から既に、サザンには迷惑掛けっぱなしだったのだけど。)

 この頃には漆黒城にも人が増え、助け合い支え合い思い合いで生活を共にしてきたのだけど、男手がじいやとイオの夫のヘクトルさんの他にいなかった。世界から城に導いたのは、この段階では全員女性だったのだ。

 ルニアのお医者様を定期的にお呼びするのも、出産に必要な諸々を万端に用意出来たのも、サザンの力がなかったら叶わなかったと思う。

 そんな合間を縫っていよいよ、サザンの出発たびだちの日を迎える事になったわけだけれど。

「──ナ。シーナ? 聞いてた?」

「えっ、うん、あ、いや、ごめん、聞いてなかった、ボーッとしてた(笑)」

「もうー(笑) だからさ、向こうに着くまで7日もかかるんだよ。
 船の上で何してたらいいかなぁ。シーナが渡った時はどうしてた?」

「あぁー。そっかぁ、そうだよね、私の時はね…」

 これが今生の別れというわけじゃないけれど、こうやってサザンとたわいもない話が出来る機会はきっと、しばらく、長く、ないだろう。

 あの人と離ればなれの時にはなかった、ちくっとする寂しさを、私は今感じている。





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