12月24日の灯り

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「──で、なんでまた、今、そんな話をしたの」

 眠気眼ねむけまなこを擦りながら私の後ろを付いてくる妻に、私は肩越しに振り返ってこう言った。

「さあ、何でかな。今の今まで、誰にも話した事なかったんだけど、ママには言っておきたくってね」

 ふぅん、と妻は欠伸あくび混じりに受けたので、きっと鵜呑みにはしていない。明日になればきれいに忘れているだろう。

 当の自分でさえ、あの日の事は夢か幻だったんじゃないかと思った。

 だけども。

 契約書も。

 妹のヘアピンも。

 私のゲームソフトも。

 今もまだ存在していて──消えていない。

 本当の事だ、証拠ならある、と喚き立てる事も出来たが、私はそうはしなかった。自分の胸にずっとしまっておこう…これまでも、これからも。

 渡り廊下の突き当たりにある寝室の扉を静かに開けた。

 先に深い眠りについた愛息子が、クィーンサイズのベッドのど真ん中で寝息を立てている。

 私は手に持っていた聖夜の贈り物をそっと息子の頭の傍に置いて、

「サンタさんが届けてくれましたよー…明日…喜んでくれるといいな…」

 無造作に放られている小さな手を柔らかく包んだ。

 その上から妻が両手で包んで、「喜ぶわよ、きっと」にっこりと微笑んでくれた。私の心は満たされた。



 かつての妹の様に、この子も瞳に星を輝かせてくれるだろうか。



 そして…私がそうだったように、いつか冷たく物事を見るようになったとしても。



 慈愛を目一杯込めながら、ほの暗くもあたたかな闇へ向けて、私は誓いを立てた。





「受け紡いでいくとも。
 この素晴らしい使命を絶やさぬように」










使命人は受け紡ぐ〈完〉



[執筆期間]
2021年11月20日〜2022年9月19日






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