12月24日の灯り

61/71ページ

前へ 次へ


 家族でよく行くショッピングモールの、おもちゃ屋に足を踏み入れた。

 平日だからガラガラ、子供ひとりだと浮くのか、レジの人がカウンター越しにジロジロとこちらをうかがう。

 その視線に縮こまりながら商品棚をゆっくり見渡した。食指が動く物は…無さそうだ。

 本当はいくつかゲームソフトが欲しかったが、ゲームソフトはねだるな、自分のお小遣いで買いなさいと釘を刺されている。

 は、と誰にも気付かれない様に溜め息を溢した。いっそ現金をくれたりしないかな、母親が激昂しそうな案をふと浮かべて、慌てて打ち消した。

 自分が本当に欲しいものが何なのか、この時の私は本当に分からなかった。自分の事なのに分からないのが、無性に悔しくて腹が立った。

「…本屋に、何かあるかな」

 ぽつり言い落としてきびすを返した時、私の足下の横を小さな女の子が走り抜けていって、お試し用のおもちゃが置いてあるコーナーで遊びだした。

 妹と同じか少し下かな、と見ていると、女の子のママだろう若い女の人が私の横を小走りで抜けて、女の子の横にしゃがんで「これ気に入ったの?」と優しい声で話し掛けた。

 「あっぱっぱ」と言いながら女の子がおもちゃの鉄琴をカンカン鳴らし、「上手、上手」とママが目尻を下げながら手を叩く。

 その光景を、その、何とも言えない気持ちで見ていた私は、ふと女の子の薄く伸びかけた髪を結ったヘアゴムに目が行った。

 うちの妹は短い髪でよく男の子と間違われるから、あの子のようにはならないな…

 そう思って、おもちゃ屋を後にした。

 本屋に向かう筈の私の足が、それとは違う方へ向いた事に、私は全く気付かなかった。全く、無意識だった。





61/71ページ
スキ