空の兄弟〈後編〉

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 数日後のある晴れた午後。

 潤子は千恵子が外へ遊びに行ったのを見計らって、例のDVDの処分を決行した。

 シュレッダーでバキバキに裁断し、本当は自分の手で燃やしてしまいたかったがそうもいかない。

 厚手の紙袋に入れ、ガムテープでぐるぐる巻きにし、「ワレモノ」と表記して玄関の軒先に置いた。

 それでも気持ちが落ち着かず、枯れ葉で埋め尽くされた庭を掃き出した。

 十分もしない内に落ち葉の山、燃やす事の出来ないDVDの代わりにとともした。

 そこへ塀の向こうで軽快な足音、潤子の前を通り過ぎ、門を跨ぐ。

「あなた」

 夫の彦一ひこいちが息を切らして帰ってきた、まだ夕方にもなっていない。

「潤子? 何やってんだ」

 彦一、潤子の足元の焚き火に目をやって言う。

 潤子の熊手を持つ手が無意識にそこらの落ち葉を掻き集める。

「や、やあね、見ればわかるでしょ、落ち葉焚きよ。
 あなたこそ、ずいぶんお早いこと」

「ああそうだった、聞いてくれよ」

 潤子のおかしな態度に目もくれない、全力で走ってきてよほど苦しいのか、彦一、ネクタイを緩めてYシャツの第一ボタンを外しだす。

 それから一度深呼吸して、こう言った。





「外国との戦争が始まるんだ!」





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