空の兄弟〈後編〉
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灯矢少年がここで言葉を止めたので、老人、無意識に問いかける。
「可哀想と思ったからか?」
自分で皮肉を言っているのだとわかっているらしい、老人は奥歯を噛みしめているようだった。
「可哀想、うん、そうも思ったかもしれない、でもね」
灯矢少年、再び首を横に振る、老人の反応を受け入れない。
「それだけじゃ涙は出ないんだよ、じいちゃん。
僕は、あんな風にみんなを追い込んだ戦争をとても憎いと思ったんだ。
頭がどうにかなりそうなくらいに、激しく怒って!
そしたら心が揺さぶられて、それで泣いたんだ。
──ああそうか。
心が揺さぶられる程の怒りを伝えたくって、僕はこの映画に励んできたんだね」
老人、目を細めて何度も小さく頷く。
「もっと自信持ってええよ。
その気持ちをお前が忘れなきゃ、俺はそれでええ思うし」
今度はちょっとだけ氷水に口をつけて、続けた。
「話のネタになる? 大いに結構やろ。
そいつのおかげで二度と戦争はしませんて、未来永劫伝わるんやったらなあ」
しかし老人、自分を見詰める灯矢少年に、不気味な程に見開いた目を向ける。
「けどなあ、時々ぞっとすんねん。
戦争を生き延びたモンが全部死にはって。
お前みたいに興味を持ってくれたモンも死にはって。
長い長い年月を経てな。
その内、俺が体験したもの全てが作り話にされるんちゃうか?
戦争がお伽話になるんちゃうか?
俺はたしかにこの国で戦争を体験したのに、何を言っても信じてもらえへん。
そうや、童話みたいになあ!」
…