空の兄弟〈後編〉
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──1945年3月9日真夜中、東京の空が紅蓮に染まった。
爆風で土埃が舞う。びちびちと顔に当たってとても痛かった。
(いたいよう、おにいちゃん、いたい…)
四つにもならない幼い妹がわんわん泣いた。
妹の顔は擦れて出た血だらけ、火傷だらけ。
きっと俺もそうだったろう、だから妹は余計に恐がる。
空を見上げれば、B29がキラキラ光る。
見惚れたら最期、あいつから降下される焼夷弾でやられてしまう。
火の雨、ぴゅーぴゅーうるさい真っ赤な雨でみんなやられてしまう。
(あついよう、おにいちゃん、あつい…)
妹の声が掠れる。
妹に声をかけたかったが、俺の喉もヒリヒリ痛くて声が出なかった。
離ればなれになった両親を探すより先に水が欲しい。
町のそこら中に設置されている防水桶、しかし全て壊れて周りが水浸し。
幸い、途中でそんなに深くはない川に阻まれ、俺は妹をおんぶしたまんま川の中に入った。
逃げ惑う人達で川が溢れ返る。
橋の上を一人の若い兵隊さんが渡っていた。
…