空の兄弟〈前編〉
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悟が食事を済ませて鷹との部屋に戻ると、鷹はすでに布団を被っていた。
「あほかお前、そんなんじゃ余計暑いやろ」
悟がそう言うと、鷹の頭が掛け布団の中からのそのそと出てきた。まだ不機嫌な顔をしていた。
でも悟はそんな鷹に謝りもしない、慰めもしない、自分の話を勝手に進めた。
「なぁた
「はい?」
「風結子ねえちゃん、風って字ぃ入っとるやろ?
鳥は、風が吹いとらんと飛べへんやん?
俺の中でお前が飛んでな、お前が飛ぶ為に風結子ねえちゃん必要やろ?
おねえちゃん、空の兄弟になれるで、どや?」
悟は布団越しに鷹の上にどすんと跨がり、嬉しそうに話す。
鷹は溜め息をついた。
風結子を初めて見たのは今年の3月に入る前、教科書を読む姿、陽にあたる横顔がとてもきれいだった。
今日のあの声は、その時のと変わらず、耳のいい鷹には心地好かった。
「俺とあの子が兄弟になるのか?」
手の平枕にして鷹が口をとんがらせて言った。
「あれ? お前、嫌なんか。俺、お前の為に言うてんねんけどな。おねえちゃんと仲良くなりたいんちゃうの?
お、あぁ、そうかぁ。兄弟じゃ結婚できへんから、嫌なんや、な!」
悟はくっ、くっ、と笑って、鷹を揺らした。
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