空の兄弟〈前編〉

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「た、お前、昼間会ったおねえちゃんの名前知っとるの」

 その日の夕飯の席で、悟が突然そんなことを言うと、飯を食っている鷹の動きが止まった。

「岡田…苗字しか知らない」

「なんでそれ知っとるねん」

「あの子言ってただろう、俺が学校に見学に来たって。
 教室の後ろで授業やってるのを見たんだけど、その時教科書読まされるのにあの子が指されて、それで覚えた」

「ふぅん。まんざらお前と風結子ねえちゃんが知り合いじゃないってわけやないんやな」

 悟がそう言うと、焼き魚を突っついていた鷹の箸が止まった。

 しばらくして、鷹は言った。

「風結子、っていう名前なのか、岡田は」

「そうやけど」

 悟は再び食を進める鷹を横目で眺めた。

 おねえちゃんの話になると出る、たのぶっきらぼう。

 青山くん、熱があるんじゃないの。

 悟は風結子の言葉を思い出し、鷹のほっぺたを見た。

「さっきからなんの話をしているの」

 鷹の向かいの幸代が、味噌汁の椀を片手に訊いた。

 鷹は黙っていた。

 しかし悟は黙らなかった。

「今日、風結子っていうおねえちゃんにぶつかってしもうてな」

 そして得意のすっとぼけ顔で、鷹にとってとんでもない事を言い出した。





「そんでなぁ、たの奴、風結子ねえちゃんのこと、好っきやねん」





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