空の兄弟〈前編〉

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 女の子は顔を上げ、鷹と目を合わせた。

「空悟!」

 自分の頬が熱くなっているのを振り切るかのように、鷹は声を張り上げて悟を呼んだ。

「くうご?」

 不思議な名前に女の子は首をかしげた。

 またか、と悟は不愉快そうに指先で後頭部を掻いて、

「飯を食うこっちゃないで、おねえちゃん」

 と言った。

 女の子はしばらく笑い、やがて、

「ねえ、どんな字の名前なの」

 と訊いた。

 同時に鷹が到着した。

「おい、バケツ使うなら、俺の後にしてくれ。氷を手で持てるわけないんだから」

「ふん、これから洪助らと遊ぶからこれ使おう思うとったけど、もうええわい。
 おねえちゃん、バケツそいつに渡したって」

 女の子は鷹にバケツを差しだした。

「こんにちは」

 女の子が挨拶をしてきたので、

「こんにちは」

 と無愛想な声で鷹は返した。

 またか、と悟はまた思った。

 このまたか、は半分呆れたような思いだった。

 洪助たちとの亀裂が直って、伯母の幸代の言う元の鷹に戻ったのだとばかり思っていた。

 悟にさえ少しは愛想をよくしているようだったのに。

 鷹の愛想のなさは鷹の性格なのだと、悟はやっと認めた。

「弟?」

「いや、従弟」

 バケツを受け取り、鷹は女の子の質問に答えた。

「氷を取りに行くの? さっきあっちで人がたかっていたわ」

「そう、どうもご親切に」

「いいえ」





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