空の兄弟〈前編〉
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「…この林は」
鷹は洪助をしばらく見てから言った。
「子供だけで入っちゃいけないんだろう? だったらとっとと家に帰るんだな」
そして、叔母ちゃんが心配している、と悟に言い、後ろへ振り返って歩き出した。
「くっ」
洪助が立ち上がり、すごい勢いで鷹と悟を追い抜いたと思ったら、少し先急に止まり、振り返らないまま言った。
「俺は…あんたが正しいなんて一生思ってやらない。
最低の注意の引き方だよ。危険なら危険って、ひとこと言やあ済むのに。
あんたは、俺たちをあんなに痛めつけなきゃ分からない、馬鹿な奴だと思っていたのか。
冗談じゃない、加減を知らないあんたとそのチビより、ずっとものかわりがいいぜ」
鷹は洪助の弁明を聞きながら、その背中をしばらく見つめて、
「──あの時は、悪かった。死ななくてよかったな、洪助」
相変わらず無愛想な声色でそう言うと、
「ふん!」
と、洪助は鼻息鳴らして駆けて行ってしまった。
ひとことで済むようなタマだったか? とちょっぴり意地の悪い事を思ってしまったが、まあいいかと、鷹はくすっと笑って流した。
…