空の兄弟〈前編〉

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「少し黙ってろ。くそ、足に力が入らない、右手も滑っちまう…」

 身動きのとれないまま鷹はもがいた。このままでは二人とも崖の藻屑となってしまう。

 すると、鷹の右腕が急に後方へ引っ張られた。

「お願い、洪ちゃんを助けて…鷹兄!」

 清作と易が泣きそうな顔でそう言って、力の限り洪助と鷹を引き上げようとした。

 鷹はしばらく呆けたが、すぐに我に返って、二人の支えを借りて足の踏ん張りを復活させた。

 悟も側まで来て、鷹の腕を引っ張るのを手伝った。

 地面のぬかるみに気を付けながら慎重に、やがて洪助の身体は完全に引き上げられた。

「洪ちゃん、無事でよがっだ!」

 易は洪助に泣きついた。清作も涙が出た。

「…いい加減放せよ、この馬鹿力。ああ、痛いったらありゃしない」

 鷹がまだ洪助の手首を掴んでいたので、洪助は右手を高く上げ、鷹の左手を振り切った。

「恩を売ったつもりか? こんなことで…俺は、許すなんて…」

 睨み付けたかったのに出来ない、目を泳がせ、ふいっと横を向く洪助。





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