空の兄弟〈前編〉
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「何やってんねん、お前ら、そいつ止めんかい!」
尻もちをついた悟に怒鳴られ、我に返った清作と易は立ち上がり、洪助の前に立ち塞がった。
走る洪助を止め、後ろへ少し退けることが出来たと思ったら、突然洪助は暴れ出し、押さえつける二人をはねのけた。
「洪ちゃん!!」
洪助は再び走り出し、清作の悲鳴に近い呼び掛けがとても響いた。
洪助の、地面のぬかるみを気にも留めない走りに速さが増した。
跳ぶタイミングはもうわかっている。
一歩目、右足を後ろへ強く蹴り。
二歩目、左足を後ろへ強く蹴り。
三歩目、右足は崖のすぐ手前で地をとても強い力で踏みつけるから、そこで跳ぶんだ。
誰にも邪魔させない、計画は完璧だ。
「あっ…」
尻をさすりながら立ちあがる悟が、声を洩らした。
嫌な光景を見たからだ。
洪助、計画失敗の図だ。
そしてそれの経過はとても具合いの悪いものだった。
強い踏み込みの第一歩目で、洪助は右足をぬかるみにとられ、よろめいた。
そこですごい勢いで転んでしまえばよかったのに、洪助は二歩目で体勢を持ち直してしまった。
第三歩目の踏み込みで彼がどんな目に遭うかも知らずに!
「!!」
洪助の目に映っている世界は突如ぶれた。
洪助は自分の身に何が起こっているのか全く分からないでいた。
「きゃああああ!!」
清作と易が女みたいな声をあげた。
洪助の、跳ぶ直前の右足による力強い踏み込みは、崖っぷちの、雨でもろくなった地面を砕いた。
まるでスロウモーションだ。何もかもが鈍くさく動いた。
洪助が川に落ちる。
悟が洪助にあほんだらと言う。
清作が両目を手で覆って洪ちゃんと言う。
易が腰を抜かして座り込む。
──ところが、その鈍くさい世界の中で速く動くものがあった。
…