空の兄弟〈前編〉

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(帰るぞ)

 鷹がそう言ったんだ、聞いたことないくらいの低い声で。この、溝の向こうへ行こうとする直前で。

(え?)

(どうしたんだべ、鷹兄?)

(いいから。帰るんだよ)

 鷹の突然の態度に俺たちは困惑した。

(なんだよ、隅々まで回る約束だろう?)

(無理なんだよ。向こうへなんか行けっこない)

(だから、どうしてさ?)

(いいから! 早くしろ!)

 鷹の言葉はさっぱり要領を得ない、段々腹が立ってきて、洪ちゃんが率先して鷹と口論したんだ。

(いやだ、ここまで来て帰るなんていやだ、俺はどうしても向こうへ今行きたいんだ。
 鷹兄、もしかして向こうへ跳ぶのが怖いのか? うそだろ、とんだ臆病者だな!
 俺は行ける、絶対行ってやる。帰るんなら勝手にひとりで帰れよ。
 清作とヤッちゃんも、跳べないならここで帰れ)

(い、いやだよ、俺だって行くさ!)

(おらだって! 弱虫じゃないがらよ)

 俺たち三人は同じ気持ちだった。心の奥底では、きっと鷹も最終的には俺たちに付き合ってくれると…思っていたんだ。

 だから、



(──くそったれ、子供が絡むといつもこうだ…!!)



 鷹がそう叫びながら、力ずくで俺たちの首根っこを掴んで、地面に叩きつけたのが信じられなかった。

 馬乗りになって、俺たちの頬を腫れるまで平手打ちをし続けたのが信じられなかった。

 俺たちが向こうへ渡る気も失せて放心状態なっても止めなかったのが…信じられなかった。





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