空の兄弟〈前編〉
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「洪ちゃん、もう見てられない、そいつにソレ返しなよ。
…って、あれ、洪ちゃん、手に持ってないじゃない!」
清作のこの言葉に、悟は我に返った。
胸元を見ると、皮紐だけがぷらぷらと揺れていた。
悟は今まで気付いていなかったが、指輪のリングにくくりつけていた部分が腐っていた。
そして、さっきの洪助との取っ掴み合いでついに切れてしまったのだ。
悟は慌てて辺りを見回した。
洪助も慌てて辺りを見回した。
「あっ、あれが?」
易が小川を指差した。
悟と洪助は同時に顔を上げた。
二人の目に、雨水の小川に流されている青い指輪が映った。
「あっ…あっ…」
このままでは荒れ狂う小川にはまってしまう。
悟と洪助、ほぼ同時に体を起こしたが、洪助がぬかるみに足をとられて滑って、走り出しかけた悟を巻き添えてしまった。
そうこうしている内に、青いガラス玉の指輪は小川のしぶきの中へ消えた。
悲しいことに音もたてなかった。
「あ…あーあ」
しばらくの沈黙の後、清作と易が同時に溜め息をついた。
…