空の兄弟〈前編〉
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悟ははっとした。
目の前で洪助ぐったりしていた。
清作と易もとっくに悟をおさえるのをやめていた。
荒い息づかいの中、泥まみれのこの四人の少年たちはしばらくの間活動停止した。
辛い思い出を抱えてすっかり首をもたげた悟の、シャツの中で青くちらつく何かが洪助の目に留まった。
洪助は自分の腹の上にいつまでも乗っかっている悟を再度突き飛ばし、悟のシャツの中に手を突っ込んで、青く光る何か──青いガラス玉の指輪を外にさらけ出した。
三人の悪ガキ達は目を見張った。
「あっ、勝手に出すなや、あほんだら!」
悟は怒鳴ったが、彼らはそんなことはおかまいなしにこの青い宝物に魅入った。
洪助の手の中で青いガラス玉は雨に打たれてキラキラと光った。
「何なの、これ」
「まんずはあ、キレイだなあや」
清作と易が目を輝かせてそう言った。
「洪ちゃん、取っちゃえよ!」
この言葉に悟はひどく身体をすくませた。
二人がやんやと騒ぐ中、洪助はこの青い宝物を前にして、ここにいる誰よりも目を輝かせていた。
こいつ、絶対奪ってまうで。
俺の最後の大事なもんを、きっと奪ってってまうで!
「なあ…もらってもいいか…?」
青い宝物の乗っている洪助の手の五本の指が静かに内側に閉じ始めるのを見て、悟は狂った犬の様にまた洪助に襲いかかった。
洪助はそれに驚いて、とっさに両の手の平を広げて襲いかかる悟を押し退けた。
「フーッ! フーッ!」
悟の息づかいはもはや獣のようだ。
清作も易も恐れおののいて、洪助を助けに行くことができなかった。
…