空の兄弟〈前編〉
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悟は口をあんぐり開けて黙り込んでしまった。鷹とあの三人の間にそんな因縁が。
「家に戻った後で、私はもう一度訊いたんだ、何があったのか。
そしたら今度はすぐに答えたよ、あいつらとケンカになった、ただそれだけだ、ってね。
私は何も言わなかった。仲直りしろともね」
「なんで」
「鷹坊は元々人づきあいの良いほうじゃなかった。
五つ年上の兄がいるから、長年弟の立場にいたせいかしらね。兄らしく接することができなかったのかもしれない。
結局あの子と三人はいがみ合ったまま。辿り着いた先は鷹の子供嫌いってわけさ。
三人もあの時何があったのか全然話してくれないしね…」
答えになっていないようだが、悟はそれについて追求しなかった。
幸代が何を言いたいのか、悟にはわかったのだ。
それは、はっきり言ってしまえば、鷹のあまりの人づきあいの下手さを指摘したとても耳に辛い言葉になるに決まっている。
幸代の辛そうな顔はもう見たくない、悟はそう思った。
「伯母さんは、あいつらが仲直りせえへんほうがええて思っとるの」
こう言った後で悟は後悔した。なんて残酷な言葉なのだろう、それは、幸代の顔を歪めた。
でも幸代はぱっと笑んでみせてこう言った。
「そうじゃないかもしれないし、そうかもしれない。
仲直りしてほしいけど、そうなったらあの子はまた畑仕事を放っぽって遊びに行っちゃうかもねえ。
あの子にとってどっちがいいのか、私にはわからないのさ」
さあおやすみ、そして今まで話したことは鷹坊には内緒だよ、と悟に言い、幸代は自分の部屋の襖を開けた。
「おやすみなさい、伯母さん」
ごめんなさいの意も含めて、声を張りあげて悟が言うと、
「ぐっすりおやすみ」
悟の気持ちを解してか、微笑んで幸代は静かに襖を閉じた。
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