空の兄弟〈前編〉

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 私がおそるおそる近づいたから、鷹坊は私に気付いて顔を上げた。母親達も私を見た。皆私を見たのさ。

(水戸部さん、あんたの甥っ子はどうかしているよ。
 この子らに訊いてみたらどうだ、何度も叩かれたって言うんだよ。
 それも思いっきりだ。ごらん、この子らの痛々しい頬を)

 母親たちの内の一人、確か土田さんだった、そう言うと、

(向こうのもんは皆こんな乱暴者け? まったぐ、嫌んなるねえ!)

 続けてそう言ったのは浜口さんだ、東北訛りだからよく覚えている。

(じゃあどうして、鷹坊も怪我をしているの、血が出ているじゃないか)

 私はそう訊いた。

 そしたら、鳥井さんがこう言ったのさ。

(それは私たちからの罰だよ。
 だって許せないじゃない、大事な息子がこんな、意味もなく殴られるなんて!)

 私は背筋が凍る思いだった。意味もなく、だって?

(ねえ鷹、正直にお言い。
 一体何があったの。
 何かあったから、こんな事をしたんだろう、ねえ)

 私はあの子の両肩に自分の両手を置いて、下から覗き込むようにして訊いた。

 鷹坊は私と目を合わそうともせず、口をへの字にきつく結んでいた。

(まあ、それじゃ何、この子らが悪いとでも?
 そんなことあるわけない、何もしていないってこの子らは言っているのよ。
 こんな、気持ちに斑のある子だとは思わなかったわ、小さい子相手に何て非常識な!)

 鷹坊の殺気を感じたよ、この時。

 両脇を固めていた男達を振り払い、私の事も横へ退けて、鷹坊はさんざん罵った母親達に向かってこう怒鳴り散らしたのさ。

(子が子なら親も親だ!
 わかってないのはどっちだ? あんたたちだろう!
 俺は悪いことしたなんて思ってないし、実際やってもいないからな!)

 そして、鷹の怒号に驚く野次馬達を掻き分けて、脇目も振らずその場から走り去ったのさ。





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