空の兄弟〈前編〉
37/91ページ
その怒りを感じたのか、幸代は慌ててこう言った。
「確かにその一件で周りの目は鋭くなったけど、そんなことは私にはどうだっていいのさ。
一番辛い思いをしているのは鷹坊、それは間違いないよ。だからあんなに働いているんだ」
長湯でのぼせるといけないから、と幸代は先に悟をあがらせて、その少し後で自分も風呂からあがった。
「た
幸代に身体を拭いてもらいながら悟が言った。
「土田さんとこの
洪助くんだけは地元の子よ。あとの二人は他方からの疎開者で…
最初は鷹にとても懐いていたのにねぇ」
「俺知りたいわ、伯母さん。
俺その三人にこの前会うてん、た
あいつらの間に何があったんか、俺知っておきたいねん、なぁ」
悟は幸代の身体を揺すった。
いかにも鷹を心配した様な口ぶりだが、目の輝きだけはどうにも誤魔化せなかった。
それは、何か面白い話が聞けるかもしれないという好奇心ゆえのものだったりする。
「鷹坊には内緒よ、私がこの話をした事は。
それから、あんまり長い話だから、話を始める前にまず服を着ようね。
じゃないと、悟くんまた風邪をひいちまうから」
…