空の兄弟〈前編〉

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 そうしているところへ、幸代が部屋の襖を開けた。

「鷹坊、あがったかい。
 じゃあ悟くん、伯母さんと一緒に入るかね…あら?」

 幸代は鷹の肩越しから悟の写真を見つめた。

 そして、しばらく黙った後に、

詩織しおりじゃないの。悟くんのお母さんだよ。
 抱かれている赤ちゃんは妹の空子くうこちゃん。
 その右にいるのがお父さんの洋俊ひろとしさん…」

 あちこちと指差して幸代が教えてやると、悟の塩ゴマ頭しか映らなかった鷹の視界がようやく拡がって、悟の亡くなった家族の顔を確認することができた。

 悟の後ろに両親が立っていた。

 悟の母は確かに幸代に似てはいた。でも鋭い感じはどこにも見られず、可憐で、華奢で、良家のお嬢さんの様だった。

 父のほうは、丸眼鏡を掛けていた。文学通を思わせる風格なのに、実際は下駄とか草履とか草鞋とかの履き物を作る職人。

 悟が履くあの大きい草履は、父が生前に自分にと作ったものだそうだ。

 写真の中の妹、空子はまだ生まれたばかりであった。母の腕の中ですやすやと眠っている様だった。

「叔母ちゃんは、こいつがこんな頭だったって知ってたのか」

 幸代が悟の塩ゴマ頭について何も口にしないから、鷹はそう訊いた。

「うん? ああ、私は毎年大阪に行ってたからね。
 悟くんの髪の成長過程は見届けているのさ」

 ふぅん、と頷いて鷹はまた写真を眺めた。

 悟や悟の家族の他に、数人の子供大人が混じって写っていた。





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