空の兄弟〈前編〉

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「タカでいいんだよ。空飛ぶ鳥の鷹の字だ」

「ふぅん、じゃあお前は俺ん中で飛んでんのやな。
 だってそうやろ、鳥は空がなきゃ生きていけへんもんなぁ」

 鷹はその言葉を聞いて、なんだか自分が悟の子分にされた様でしゃくだったが、

「空の兄弟、ってわけだな」

 無邪気に笑う悟を見ると、どうとでもしてくれという気分になる。

「おい、た! 多分俺らは戦争終わるまで一緒や。俺の言うことちゃんと聞くんやで」

「あぁそうだな…っておい、何だそりゃ」

「たはどうも兄貴には頼りない。
 長年兄貴をやっとった俺の方がよっぽど頼りになるで。
 伯母さんもきっとそう言いはるわ」

 とんちんかんな発言に戸惑う鷹を尻目に、悟はけらけらと笑った。

「あのなぁ、そもそもお前、発音がおかし過ぎる。
 たって、尻上がりに言うな。そっちは鳥のほうじゃないか、馬鹿!」

 こっちの方が気に食わなかったらしく、鷹が怒鳴り散らすと、

「ふん、年上のくせにそういうところが俺よりガキっぽい言うてんねや。
 ええやんか、たで。
 俺は鳥の鷹のほうが好きやぞ。
 だってかっこええもんな、お前よりずっと!」

 くっくっくっ、と笑いをこらえて、悟は家の方へ駆けていってしまった。

「──勝手にしろ、クソ空悟!!」

 そう叫んで、鷹は編みかけの藁と藁束を赤に染まりかけの空へ力いっぱい放り投げてやった。

 遠くで悟のあははと笑う声が、鷹の耳に届いた。





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