空の兄弟〈前編〉
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西陽の陽射しが強くなる時刻になった。
刈り終えた麦を幾つかの束に分けて、鷹はそれを二つ両脇に抱えてどんどん家の横にある小屋の中へ運んでいった。
「それで最後かい?」
夕飯の準備を始めようとする幸代が勝手口から顔を出して言った。
「あいつは? どこ行った」
麦束をどすんと下に置いて、鷹は辺りを見回す。
「悟くんかい? まだ家には入ってないと思うけど。
ずっとお前と一緒だったんじゃなかったの」
悟はどうも神出鬼没でついていけない、と思わず鷹は溜め息をついた。
「探しに行っておいきよ」
「なんで俺が」
「お前がまた、あの子を不貞腐らすような事をしたんじゃないかと思ってさ」
「俺は別に何も」
そこまで言いかけて鷹は口をつぐんだ。
「ほら、思い当たった」
幸代は鷹の左こめかみをつんと突ついた。
鷹はしばらく黙っていたが、やがて
「いいや、俺のせいじゃないぞ」
自分に言い聞かせるように少し強く言った。
「名前の理由を訊いて何が悪いんだ、まったく」
悟の捨て台詞を思い出して眉間にしわを寄せる鷹に、
「私は知っているよ、あの子が空悟って付けた理由。
知りたい?」
幸代はもったいぶるように言った。
…