空の兄弟〈前編〉
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鷹が実った麦を次々と刈っている途中で、麦と麦の間から突如悟が顔を出した。
「わっ! 何やってんだよお前」
危うく悟の顔に傷をつけるところだったので、鷹は慌てて鎌を引っ込めた。
「邪魔なんだよ、畑に入ってくんな」
しっしっと鷹は手の平を埃を掃く箒の様に動かして、悟を追い出そうとした。
しかし悟は一向に動かず、それどころかにたーっと笑って、
「あんなぁ、俺にもやらせてほしいねん」
と言った。
それを聞いた途端、鷹は
「お前なんかに出来るもんか」
と即笑い飛ばした。
すると悟、口をへの字にさせて鷹の手から鎌をひったくった。
おい、と鷹が言うのを無視して、自分よりずっと背の高い麦の穂を要領よく刈っていった。
それを見た鷹は何も言えず、むすっとして刈り終えた麦の山に仰向けで寝転がった。
悟はそんな鷹をひと目見て、勝ち誇った顔で麦刈りを再開した。
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