空の兄弟〈前編〉
22/91ページ
おにぎりもお茶もなくなって、食休みも十分にとった。
悟がすうすうと寝息を立てる横で鷹は立ち上がって、いくつか畑のある中の、黄金に実った麦の敷地を眺めた。
「叔母ちゃん、もう収穫してもいいだろう?」
「そうね、お願いするわ。今晩は麦飯にしようかねぇ」
鎌を手に取って鷹が麦畑へ行こうとした時、悟はぱちっと目を開けて上半身を起こした。
「おや、もういいのかい」
幸代の問いかけに、悟は目を擦りながらこくんと頷いた。
そして、木の幹からすたんと両足をしっかり地につけて降りた拍子に、悟のシャツの中に入れてあった首飾りの指輪が顔を出した。
「あれ? その指輪…」
見覚えがあるのか、幸代がそうつぶやいた。
悟は慌てて首飾りを再びシャツの中にしまい、鷹の方を向いて、
「お前にはやらへんぞ」
そう吐き捨てて、顔を洗いに水道ポンプの所まですたすた歩いていった。
「なんで俺に言うんだよ」
悟の理不尽な言動に腹を立てる鷹に、幸代は、
「そりゃあ、お前が欲しそうな顔をしたからさ」
と言って、くすくすと笑った。
…