〈改稿版〉traverse
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ナニを言ってるの? と思ったすぐ後に、樹深くんが言いたい事を瞬時に理解した。ギュッとバスタオルの中で両腕をクロスさせた。
私の今日の服、淡い水色のストライプのカットシャツ。生地は厚めだけど、雨で肌に張りついて…透けていたらしい。
「ちょっとっ…もうっ…」
私が言いかけると、樹深くんが被せてきた。
「そういうの、元さんの前だけにしてよ。
…でも、そうするにしてももう少し…色気のあるやつにしたら?」
「なっ…! ばかっ…!」
「あはは。じゃあね。気をつけて行きなよ」
言いたいだけ言って、樹深くんは地下鉄の駅へ降りていってしまった。
「樹深のアホ! セクハラー!」
私の声は雨音に掻き消された。きっと樹深くんには届いていない。
私は商店街のメインストリートに入り、きたいわ屋までの道すがら、ぶつぶつ考えた。
ボディバッグを持たせたのは、他の人から隠せるように?
早歩きだったのは、私の無頓着さに呆れたから?
ひと言余計なのは、まぁ、いつものことか。
色気のあるの、買っといたほうがいいのかな。
とにかく樹深くんのせいで、いらない事までごっちゃ混ぜに考えた。
…それの、ほんの片隅で、いつもの調子の樹深くんに戻ってホッとしている自分も…いた。
…