〈改稿版〉traverse
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観覧車に乗り込むと、中にタッチパネル式のモニターが付いていて、ここから見える景色を説明してくれる物だった。
元ちゃんとタッチしまくって、「へえぇー!」と音声ガイダンスにいちいち感心していた。
ひとしきりそれが終わって、急に静かになる私達。ゆっくりてっぺんへ上っていく時間を、景色を見下ろしながら感じていた。
「なんか、オマエといると、楽しいよなぁ…」
元ちゃんがボソリと言った。
その時ちょうど、てっぺんのバーを通り過ぎて、
「わっ、元ちゃん、もう半分終わっちゃったよ。降りたらもう帰りだね。
あー、今日は楽しい休日だったなぁ。元ちゃん、ありがとね」
と、今日一日を興奮ぎみに振り返った。
「またオマエは…人の話を聞かないな(笑)
…勇実ぃ。オマエは、どう?
俺といて…楽しい?」
「うん? 楽しいよ。だって、元ちゃん面白いもん」
「ははっ、そっか」
ふーっ、と溜め息をつく元ちゃん。なんかヘン。どうしたんだろ?
「あー、あのさぁ…勇実」
「うん…?」
いつもの、勇実ぃ、じゃない。
その先をなかなか言わない、いつもの元ちゃんじゃない元ちゃんに、心がざわざわする。
「…俺と、付き合う…?」
やっと出た元ちゃんの言葉に、私は息を飲んだ。
え? え? 付き合う? 私と元ちゃんが?
典ちゃんと彼氏さんみたいに、あるいは、あの樹深くんの歌を聴いていった素敵な二人みたいに?
なるの? 私と元ちゃんが? なんか、想像出来ないんだけど。
でも…私、元ちゃんの事はキライじゃない。キライじゃないよ。
観覧車がゆっくり下降する中で、元ちゃんの声がもう一度響いた。
「オマエの事、好きだよ」
…