〈改稿版〉traverse
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樹深くんと再会して、次の月曜日。
カラカラン♪
「いらっしゃい、勇実ちゃん。ねぇ、彼、やっと顔見せたよ」
「あーイッサ、やっと来た!」
喫茶KOUJIの扉を開けると、カウンターを挟んでマスターと樹深くんが、口々に言ってきた。
「げっ。なーにー? また、モーニングお預け食らってるの?」
「あっ、ちょっとイッサ、今日はこっちに座ってよ」
いつもの窓際の席に着こうとする私を、樹深くんが止める。
「えー? なんでよ。やですよーだ。話があるなら、そっちがこっちに来たらいいでしょ、って前も言ったでしょー?」
「いいからいいから。おんなじモン頼むのに、こんなに離れてたら、マスターが運ぶの大変でしょ?」
うーむー。まぁ、確かに。
でもなぁ、この席で陽の光浴びてまったりするの、好きなんだけどなぁ。なにげに、パワースポットなんだけどなぁ。
ぶちぶちと考え込んでいると、
「ほらほら、こっちこっち」
「わっ、わっ、わかったからっ。急に袖引っ張んないでっ」
いつの間にか傍にやって来た樹深くんに、カウンター席に連れていかれた。
「ハハハ、勇実ちゃんがカウンター席にいるの、新鮮だねぇ。
じゃ、今から作るから待っててネ」
「あれっ、今日はもう決まってるの?」
いつもは、私が来てから決まる月曜日のモーニングメニュー。
「フフ、今日は俺が久しぶりに来たから、俺を見て決めたんだって。
今日は、ホットサンドと、目玉焼きと、サラダにオレンジだよ」
「そうなの? じゃー、なんで私を待ってたの? 先に食べてればいいのに…ズズッ」
マスターが先に用意してくれたコーヒーを飲みながら、樹深くんに聞く。
「そうそう。イッサさぁ、こないだの歌詞、覚えてたら教えてほしいんだけど。
こうしてに逢いに行く度…なんだっけ?」
「え? それを痛感させられるよ、でしょ?」
「うんうん。それから? なんだっけ?」
「え? だから、これから逢えるというのに、嬉しさ半分切なさ半分…でしょ?
え? え? え? ジョーダンでしょ? 自分で作った歌なのに、覚えてないの!?」
「あは…即興で作ると…メロディは覚えてるんだけど、歌詞はスコーンと抜けちゃうんだよねぇ…
今回は残しておきたいから、イッサ、協力して下さい。お願いします」
メモ帳とボールペンを持ちながら、ペコリと頭を下げた樹深くんを見て、ぷっと吹き出してしまった。
私が全部覚えてるのは…すごかったからだよ。私の心に残ってしまったんだよ。
「しょうがないなぁ。私が記憶力よくって、よかったね?(笑)」
「すんません(笑)」
私達のそんなやりとりを見て、マスターがモーニングプレートを差し出しながら、
「んー、キミら、やっぱいいねぇ。若いって、いいねぇ」
鼻唄混じりにそんな呟きをした。
…