〈改稿版〉traverse

34/171ページ

前へ 次へ


 樹深くんと再会して、次の月曜日。

 カラカラン♪

「いらっしゃい、勇実ちゃん。ねぇ、彼、やっと顔見せたよ」

「あーイッサ、やっと来た!」

 喫茶KOUJIの扉を開けると、カウンターを挟んでマスターと樹深くんが、口々に言ってきた。

「げっ。なーにー? また、モーニングお預け食らってるの?」

「あっ、ちょっとイッサ、今日はこっちに座ってよ」

 いつもの窓際の席に着こうとする私を、樹深くんが止める。

「えー? なんでよ。やですよーだ。話があるなら、そっちがこっちに来たらいいでしょ、って前も言ったでしょー?」

「いいからいいから。おんなじモン頼むのに、こんなに離れてたら、マスターが運ぶの大変でしょ?」

 うーむー。まぁ、確かに。

 でもなぁ、この席で陽の光浴びてまったりするの、好きなんだけどなぁ。なにげに、パワースポットなんだけどなぁ。

 ぶちぶちと考え込んでいると、

「ほらほら、こっちこっち」

「わっ、わっ、わかったからっ。急に袖引っ張んないでっ」

 いつの間にか傍にやって来た樹深くんに、カウンター席に連れていかれた。

「ハハハ、勇実ちゃんがカウンター席にいるの、新鮮だねぇ。
 じゃ、今から作るから待っててネ」

「あれっ、今日はもう決まってるの?」

 いつもは、私が来てから決まる月曜日のモーニングメニュー。

「フフ、今日は俺が久しぶりに来たから、俺を見て決めたんだって。
 今日は、ホットサンドと、目玉焼きと、サラダにオレンジだよ」

「そうなの? じゃー、なんで私を待ってたの? 先に食べてればいいのに…ズズッ」

 マスターが先に用意してくれたコーヒーを飲みながら、樹深くんに聞く。

「そうそう。イッサさぁ、こないだの歌詞、覚えてたら教えてほしいんだけど。
 こうしてに逢いに行く度…なんだっけ?」

「え? それを痛感させられるよ、でしょ?」

「うんうん。それから? なんだっけ?」

「え? だから、これから逢えるというのに、嬉しさ半分切なさ半分…でしょ?
 え? え? え? ジョーダンでしょ? 自分で作った歌なのに、覚えてないの!?」

「あは…即興で作ると…メロディは覚えてるんだけど、歌詞はスコーンと抜けちゃうんだよねぇ…
 今回は残しておきたいから、イッサ、協力して下さい。お願いします」

 メモ帳とボールペンを持ちながら、ペコリと頭を下げた樹深くんを見て、ぷっと吹き出してしまった。

 私が全部覚えてるのは…すごかったからだよ。私の心に残ってしまったんだよ。

「しょうがないなぁ。私が記憶力よくって、よかったね?(笑)」

「すんません(笑)」

 私達のそんなやりとりを見て、マスターがモーニングプレートを差し出しながら、

「んー、キミら、やっぱいいねぇ。若いって、いいねぇ」

 鼻唄混じりにそんな呟きをした。





34/171ページ
スキ