悠の詩〈第3章〉
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しばらく雑談をしてから、じゃあまた大晦日にね、そう言って俺達は電話を切った。
おまちどおさま、とかあちゃんの手伝いに加わる。
「かあちゃん、俺大晦日の夜出掛けるんだけどいいかな。家に居なきゃいけないんだっけ」
ガラスのしつこい汚れと格闘しながら聞く俺。
はあ? と溜め息をつかれそうな顔を向けてきたので、慌てて弁明する。
「樹深たちと○○○観音に初詣と、ついでに初日の出を見ようってなってさ、明け方に帰ってくる感じになるんだけど…」
だめですかね、肩を竦めてお伺いを立ててみる。なんか樹深みたいだなと頭によぎったから、最後はふっと笑いを堪えられなかった。
「別にいいけど。たっくん達の邪魔にならないようにしなさいね」
カエちゃんから聞いて知ってるんだから。どうやら樹深のお母さんが天体観測の話をしたらしいや、話が早くて助かる。
「いっそ、家族で行くのはこれでやめにするでもいいかもね」
え、と思わず漏らしてしまった俺を、かあちゃんは意外そうに見た。
「かあさんだって春海と同じ年の頃は、友達といるのが楽しくてしょうがなかったよ」
かあちゃんがカラッとした性格なのは知っているけど、だからって、家族恒例行事を減らしちまうの? 自分で言うのもなんだけど、俺達仲良し家族じゃん。
俺がもっと大きくなったら…家を出るとかになるまでは続くもんだと、思ってた。
「まじかよ、やめなくたっていーじゃん。
だいたい、とうちゃんがいない時にそんな話、とうちゃん泣いちゃうぞ」
わりと真面目に言ったつもりなのに、かあちゃんは大笑いして、
「そうだわね、ごめんごめん」
大黒柱を置いてけぼりにしちゃうとこだったわ、目尻を擦りながら言った。
「まあでも、元日にいっぺんじゃ春海も大変だから、家族で行くのは別の日にしよう。
あ、でも御札とか破魔矢とかは元日に欲しいわ。お金渡すから春海買ってきて頂戴よ、かあさん、おとうさんとおこたでのんびり待ってるから〜」
まんまとおつかいを押し付けられた俺は「げぇ〜」と不満を垂らしたけど、まあ、いいか。
しんみりは柳内家には似合わないや。
…