悠の詩〈第3章〉
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日曜日。とうちゃんに見送られながら、出掛けるかあちゃんと一緒に家を出た。
「本当なら手土産持たせて行かせたいけど…手ぶらで来させてねってカエちゃん(樹深母、名前が
くれぐれもたっくん家のご迷惑にならないように、うるさくしたり散らかしたりしたらダメよ!」
小言を沢山聞かされた後、駅に向かう道と樹深ん家に向かう道の分岐点でかあちゃんと俺は別れた。
いつまでも子供扱いだなと思いつつ、うるさくしない、はちょっと約束出来ねぇと苦笑いした。
樹深の家に到着。
インターホンを鳴らそうとすると、ちょうど玄関の扉が開かれた。
出てきたのが梓ねえちゃんで、
「あっ春海くん、いらっしゃい。樹深ー、春海くん来たよ。
樹深と勉強だって? 私も、誰もいないから、どうぞごゆっくりね。
あ、イッサはいるけど(笑) じゃましちゃったらごめんねー」
眩しい笑顔を俺にくれてから出掛けていった。
その背中をぽやんと見送ってると、足元にこそばゆい摩擦。イッサが体を擦りつけてしっぽを振っていた。
「あーあーイッサ、散歩は後だよ。春海ちゃん上がって」
奥から出てきた樹深がきっぱり諭すと、クゥンと鼻を鳴らして、樹深の後ろをトボトボと歩いた。
「みんないないって、親父さんも? 休みじゃないんか」
「うん、休日出勤だって。でもいつもよりは早いから、春海ちゃんが帰る頃に帰ってくるんじゃないかな。
さ、早く練習しよ。昨日の感触忘れたくない」
そう言いながら自分の部屋のある2階へ駆け上がる樹深、それに付いていこうとすると、
「あ、春海ちゃん今日はリビングでいいんだよ、そこで待ってて。ギター取ってくる。イッサだけを1階においておけないからさ」
と止められたので、一段踏みかけた右足をそっと下ろした。
すぐそばのダイニングテーブルに料理がラップされて並べてあるのが視界に入って、
「あー、お昼用意して貰っちゃって、悪いな。お前のお母さんにお礼言っといてー。
うちのかあちゃんが、うざい位にすまなそうにしてたー(苦笑)」
階段の下からちょっとボリュームを上げて樹深に言った。
「そんな気ぃ遣う仲じゃないでしょうに(笑) でもまぁ、春海ちゃんのお母さんはそうだよね」
ギターと楽譜を抱えながらそう言って下りてきた樹深、長い付き合いだからかあちゃんの事もよく分かってる。
「別に大変じゃなさそうだったよ。姉ちゃんも手伝ってたし」
「え、梓ねえちゃんも!」
この中に梓ねえちゃんの手料理が。思わず顔が緩んでお皿に手を伸ばすと、
「あーあー春海ちゃん、あーとーでーね」
さっきのイッサと同じ様に諭されてしまって、視界の端っこで、イッサが仲間意識を持ったのか何なのか、ワンッとご機嫌にひとつ鳴いた。
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