悠の詩〈第3章〉
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あっという間に帰る時間になり、その前に最後にもう一度照井さんに聴いて貰った。
ら、その途中で照井さんがおもむろに、置かれていたキーボードを前に構えて、事も無げに俺達の演奏に加わってきた。
驚いたがあまりにも自然で、新しい音が重なるというのはこんなにも…体の内側から震えるもんなんだ。
気持ちよく演奏を終えられて、コタ先生から惜しみない拍手を貰った。
「今日一番の出来だったなぁ、お前達。お疲れさん。
照井、腕は鈍っちゃいないようだな?」
先生の言葉に照井さんはハッハと笑い、
「ごめんね、いきなり横から。キミ達見てたら昔を思い出しちゃって、ついね。
本番でも頑張ってね、うまくいくよう応援してる」
さぁぼちぼち開店だぁ、と伸びをしながら下へ降りていく照井さんの背中に向かって、
「「ありがとうございました!」」
俺と樹深は深く礼をした。
商店街のそばの大通りでタクシーを捕まえて、俺達は帰途に着いた。
最初に停まる樹深の家に着くまで、タクシーの中で今日の出来事を興奮気味に振り返る。
「いい所だったなー。またあそこでやりたいなー。
照井さんもいいヒトだったなー。またあのカレー食べたいなー」
「ほんとに。いっぱい練習出来てよかったよね。月曜柏木さんと合わせるのが楽しみ~」
「ふはは、それは何よりだな。
…あっそうだ、忘れない内に」
そう言ってコタ先生がカバンの中を漁って出したのは、2本のカセットテープ。
また? と思ったけど、まさかこれってもしかして。
「さっきの、最後のヤツ録ったから」
やっぱり、いつの間に。演奏に夢中でコタ先生の動向に気付いてなかった。
「柏木にはナイショな? 知ったらむくれるからなぁあいつは(笑)」
「男達のヒミツ?(笑)」
「そ(笑)」
柏木さんに悪いなぁ、そう言いつつも笑顔でテープを受け取る樹深が決定打、堪えきれず3人で大爆笑をした。
ルームミラー越しに運転手さんが若干迷惑そうな顔をしてたので、ちょっとだけ肩を竦めた。
この日の事を、あの町の商店街の外れにあったあのスタジオでの事を忘れられず、ずーっと後で樹深がそこを拠点にミュージシャンを目指す事になるだなんて…
この時の俺達は知る由もない。
…